裏庭セカンドジェネレーション
CHAPTER 08A
第8話【幼姫】Aパート
足が治り、学校に通い出して、三日目の土曜の昼下がり。
僕とミライとアヤさんは、買い物の為スーパーに来ていた。
「ねぇ、アネキ!これ買おうよ」ミライは、冷凍コロッケの大きいパックを手に取った。
「明日は、お母さんは学会でいないし、お父さんも会議があるから、
私達の分だけでいいのよ」アヤさんが、冷凍食品のパックを手に取り、日付を確認しながら横目で見て答えた。
「えー、ならお弁当用にしたら?」ミライは食い下がっていた。
ミライの好物はコーンの入ったコロッケなので、よくお弁当のおかずのトレードを持ち掛けられていた。
「お弁当に入れてるコロッケは、冷凍食品じゃ無いのよ・・私がまとめて作っておいたものを、
冷凍して保存しておいて、使う分だけ解凍して、暖めてから、お弁当に入れてるのよ」
アヤさんが冷凍食品のパックを元に戻して言った。
「そうだったんですか・・全然知りませんでした・・」僕はアヤさんがそこまでしている事に驚いていた。
「前、忙しい時に、冷凍食品のコロッケ入れたら、残してたでしょ・・だから私が作るの」アヤさんが微笑んだ。
「お姉ちゃん・・ありがとう・・」ミライも感動しているようだった。
姉に対して少し反発している時と、素直な感情を持っている時の違いは、
ミライの口調から、顕著に読み取る事が出来た。
「じゃ、明日のお昼は何が食べたいのかな?」
「前、アヤさんが作ってくれたホットケーキ美味しかったなぁ・・」
僕は、昔三人でホットプレートを囲んでホットケーキを食べた時の事を思い出した。
中学に上がってからは、大人ぶりたくもあり、あまり食べたいとは思わなくなっていたが・・
「そういえば、もう二年ぐらい食べて無いかも・・コーヒー牛乳と一緒に食べると美味しいのよねぇ」
ミライもうっとりとした目をしていた。
「それじゃ、明日の朝はホットケーキね・・じゃ久しぶりに花梨はちみつ買わないとね こっちよ!」
僕とミライはアヤさんの後をついて行った。
「今晩は何にするの?お姉ちゃん」
「そうね・・お父さんも疲れてるみたいだから、焼き肉にしようかと思ってるの」
「あ、そうだ・・ムサシから聞いたんだけど、昔は肉を使った料理で、
”スキヤキ”ってのがあったそうなんですが、アヤさんは、食べた事あります?」
「無いわねぇ・・それは私のレシピ一覧にも無かったわ・・けど洞木の奥さんなら知ってるかも じゃ、帰りに聞きましょうか」
「材料はあまり変わらないそうですし・・父さんもいつも僕達に合わせた食事取ってるし・・」
「優しいのね・・シンイチ君」
「ねぇ、シンイチ・・それって美味しいの?」
「何でも生卵に漬けて食べるんだって」
「珍しい料理ね・・生卵に漬けるだなんて・・」
ミライも興味深々であった。僕達はスーパーを物色し、いろいろな物を買い込んだ
「7845円になります」
「じゃ、これで」アヤさんはカードを差し出した。
「はい、少々お待ち下さい」アヤさんが支払いを済ませてカートを突いて来た。
「あ、持ちますよ」僕はかなり詰め込まれたスーパーの袋を手に取った。
「ありがと、シンイチ君!じゃ、お肉買いに行きましょうか」
「ここで買わなかったの?お姉ちゃん」
「行き付けのお肉屋さんがあるのよ」僕達は商店街に入って行った。
「アヤちゃん!今日は西柾で特売やってたわよ」
「アヤちゃん!今日は彼氏とお買い物? 隅に置けないねぇ」
「アヤちゃん!今度、冷やし中華のレシピをコピーさせてね」通りかかる主婦や商店の主がアヤさんが通ると声をかけていった。
アヤさんはその全てに、笑顔で挨拶を返していった。
「す、凄い・・」この商店街にアヤさんと入った事が無かったので、僕は驚いていた。
「お姉ちゃん・・有名なのね・・」
「8年ぐらいになるから・・みんなが顔を覚えてくれて・・いろいろ親切にしてくれるの」アヤさんは恥かしそうに言った。
「あ、あそこよ!」アヤさんは行き付けらしい肉屋を指差した。
「あら、アヤちゃん!今日は皆でお買い物?」
「鈴原さん!」
「あ、こんにちわ」
「こんにちわ」
「あ、スキヤキの作り方分かります?」
「そうね・・・最近作った事無いけど、わかるわよ・・肉は、そうね・・この肉が合うと思うわ・・」
数分間、アヤさんは鈴原ヒカリさんにレクチャーを受けていた。
「ありがとうございました」鈴原さんと別れ、僕達は家に向かって歩いていた。
「引越しかしらね」家の斜め横の一戸建ての家の前にトラックが止まっていた。
「明日にでも挨拶した方がいいわね」
「ふぅ・・これが花の高校二年生とは・・所帯じみてて嫌ーね」
「お褒めの言葉と想っていいの?ミライ」
「そんな訳無いでしょ・・皮肉よ・・私には真似出来ないなって・・」
「まぁ、まだ14歳なんだし、あせる事も無いんじゃ無い?ミライ」
「そうかな・・」
「なら、晩御飯作るの手伝ってくれる?」
「うん!お姉ちゃんと一緒に料理した事無いし」
「僕も何か手伝いましょうか?」
「いいの、シンイチ君は座ってていいから」
「そうそう男が厨房に入るものじゃ無いのよ」二人は何がおかしいのかお互いの顔を見ては笑っていた。
「ただいまぁ」僕達は家の中に入っていった。
「あれ、パパどうかしたの?」ミライは、ソファーに横たわってる父さんの背中を押しているアスカさんに声をかけた。
「なんか、疲れてるみたいなのよ・・手が疲れちゃった・・シンジヘ寝入っちゃうし・・止める訳にもいかないでしょ」
「かわりましょうか?」
「ほんと?じゃ私はお風呂の掃除しなきゃ」アスカさんは立ち上がって部屋を出ていった。
「それじゃ、始めましょうか」
「うん」
アヤさんとミライはスーパーの袋を下げて、キッチンに歩いていった。
僕はソファーの上の父さんの背中をソファーの横から揉んでいった。
数分間僕は揉み続けた。
「んっ・・アスカ・・もういいよ・・」父さんは目を覚ましたようだ。
「あれっ?シンイチ?」父さんはいつの間にか僕が背中を揉んでいたので、驚いていた。
「すまんな・・ありがとう」父さんは身体を起して、首を数度捻った。
「肩も凝ってるんじゃ無いですか? 座って下さい」
「ん? ああ」父さんはソファーに腰掛けた。僕はソファーの背後から父さんの首筋から肩を揉んでいった。
「うー・・そこ・・そこが・・」
「ガチガチになってるじゃ無いですかぁ こんなになる前に言ってくれたら、肩揉んだのに・・」
「うっ・・もうちょっと優しくやってくれ」
「ちょっとしか力入れて無いですよ・・ほら」
「もしかしたら、ここも凝ってるんじゃ・・」僕は腕の付け根の後ろ側を揉んだ。
「ぐっ・・そ・・・そこは・・」
「やっぱり凝ってる・・肩が凝ったら肩を上下させたらいいって、こないだTVでやってましたよ」
「シンイチ・・この間は・・済まなかったな・・」父さんは少し俯いて言った。
少し寂しそうな父さんの背中が僕の胸を打った。
「わかってます・・・・だから・・」
「ありがとう・・おまえに罵られても文句の言えないような事を・・」
「まだ言うんですか?ならこうですよ」僕は腕の付け根の内側を揉んだ。
「そっそこは・・・ぐ・・」父さんはうめき声を漏らしていた。
僕は最期に握りこぶしを使って肩を叩いていった。
背骨の周りを下から上に叩いていくと、父さんは気持ちがいいのか、声も出せないようだった。
数分後「ふぅ・・肩が軽くなったよ!シンイチ」父さんは肩と首を動かしながら言った。
「さっき、母さんがお風呂の用意してたから、もう入れるでしょうから、お風呂に入ったらいいですよ・・」
「シンイチ・・」
「この前・・帰って来る事が出来たら・・そう呼ぼうと思ってたんです」
「そうか・・アスカも喜ぶと思うよ・・恥かしがるだろうけどね」
「そうかも知れませんね・・」
「シンイチ・・私もアスカも・・おまえの事を息子だと想っているよ・・」
「僕には・・二組の両親がいるんですね・・何か得してるのかも知れませんね・・あれっ・・何言ってるんだろう・・」
「ありがとう・・シンイチ・・」
僕は父さんとお互いを見詰め合っていた。
「お風呂入れるわよ」アスカさんの呼び声が聞こえた。
「それじゃ、行って来るよ・・」父さんは立ち上がって、風呂場に向かって歩いていった。
僕は父さんの背中が見えなくなるまで見つめていた。
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第8話Aパート 終わり
第8話Bパート
に続く!
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