「大丈夫かい?」僕は、髪を大事そうにさすっている、小女に声をかけた。

「余計な事をしないで!」だが、少女は顔も上げずに叫んだ。

「余計・・だったのかい?」

「ローレンツ家の次代の当主が、他人の手を借りて身を守るだなんて・・」

少女は毅然とした表情で、顔を上げた。

金髪に真っ赤な瞳と白い肌・・その本来ならミスマッチとも言える取り合わせでありながらも、
何故か、ぎりぎりの線で調和が取れており、神秘的な顔立ちであった。


裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 08C
BGM 幼姫
第8話【幼姫】Cパート



「良く分からないけど・・ごめん・・」少女の気高さに胸を打たれた僕は、頭を下げた。

「あなたが謝る必要は無いわ・・」

「君、あまり見かけないけど、どこの家の子なの?」

「あなたには、関係無いわ・・」

「それもそうだね・・家まで送ってあげようかと思ったんだけど・・」

「良く見れば美形ね・・いいわ・・エスコートして下さる?」

僕は、何と言って良いかわからなかったが、少女が歩き出したので、その後ろについていった。

「ここが、私の家よ・・と言っても、本当の家はドイツにあるんだけどね」

「もういいわ・・ありがとう」そういって少女はドアノブを捻ったが、扉は開かなかった。

少女の家は、昨日引越しをしていた家であった。

「まだ、帰って無いの・・」

「どうかしたの?」僕はつい、声をかけてしまった。

「ママが出かけていってて、まだ帰って無いのよ・・」少女が言った途端、少女のお腹が可愛く鳴った。

「あの・・良かったら、僕の家でお昼を食べない?ホットケーキ焼くんだけど」

「ホットケーキ?」思わず反応してしまう辺りは、まだ子供らしさが感じられた。

「うん・・僕の住んでる家は、すぐそこだから、どこにいるか、メモを挟んで置けばいいよ」

「そうね・・それじゃ、ご馳走になるわ・・」気位の高さも、昼前だと言うのに何も食べて無い状態では、食欲が優るようだ。

「それじゃ、行こうか」

「うん・・」

「ただいまぁ〜」僕は扉を開けた。

「遅かったわね、シンちゃん」アヤさんが手を拭きながら出て来た。

「一人増えたんだけど・・いいですよね」僕はビニール袋を手渡しながら言った。

「増えた?」アヤさんが首を傾げた時、僕の後ろに隠れていた少女が顔を出した。

「そこの、昨日引っ越して来た家の子らしいんだけど、親がまだ戻って無いそうなんだ・・」

「そうね、ご挨拶もしようと思ってた事だし、一緒にホットケーキ食べましょうね」アヤさんは、少女に向かって微笑んだ。

「大丈夫、材料は一杯あるから」

「じゃ、メモにここにいる事を書いて、挟んで来ます」

「わかったわ、さ、こちらにいらっしゃい」少女はアヤさんに連れられていった。

僕は玄関にあるメモ帳に、子供さんを預かっている事と、家の場所を書き添えた。



「ただいま」僕は、少女の家の玄関にメモをはさみおえ家に戻って来た。

「おかえり、プレートはもう、暖まったわよ」

食卓だと、少女の背が足りないので、背の低い机にホットプレートを置き、材料を並べていた。

少女は、正座が辛いのか、足に手をやっていた。

「楽な格好してないと、足がしびれるよ」

「郷に入りては、郷に従え・・日本では、この座りかたなんでしょう?」

「いつも、そんなに座ってる訳じゃ無いよ・・」

「そうなの? じゃ」少女は少し足をずらしていた。

「ホットケーキ好き?」もうすでに親しくなっているらしく、ミライが親しげに声をかけていた。

「うん! ママの作ってくれる、ブルーベリージャムを塗るホットケーキが大好物なの・・」

「ごめんね・・ブルーベリージャムは無いけど、おいしい蜂蜜があるから」

「それじゃ焼くわね」アヤさんはボウルに入った生地をおたまですくい、ホットプレートの上に丸く並べていった。

大き目のホットプレートなので、4人前分が一度に煙を上げていた。

「シンイチ君、ひっくり返してくれる?」

「あ、はい」

「ミライ、ナイフとフォークを配ってくれる」

「うん、はい、どうぞ」ミライは、少女の前にナイフとフォークを置いた。

2分後

「もういいかな」薄めに焼いたので、もうすでに火が通っていた。

「はい、どうぞ」僕は少女の皿にホットケーキを乗せた。

「これがマーガリンで、これが蜂蜜よ」アヤさんが銀の包み紙のマーガリンと、瓶に入った蜂蜜を少女に渡した。

少女は、慣れた手つきで、大人用の大きいナイフとフォークを使い、マーガリンを塗り、はちみつをかけて、ナイフで切り揃えていった。

アヤさんと、ミライの皿にも載せ、最期に僕の皿に乗せた」

「じゃ、次焼くわね」

「はい、どうぞ」

僕はミライに手渡された、マーガリンと蜂蜜を受け取った。


「おいしーい」少女は、美味しそうにホットケーキを口に運んでいた。

「ほんとだ・・懐かしい味だなぁ・・」僕もホットケーキを頬張った。

「はい、どうぞ」アヤさんがカップに入ったコーヒー牛乳を少女の前に置いた。

「何?これ」

「コーヒー牛乳よ」

「カフェオレみたいなもの?」少女はカップに口をつけた。

「おいしい!」

僕もアヤさんからコーヒー牛乳を受け取り、口をつけた。


10分後・・

僕達は数枚のホットケーキを食べ終え、くつろいでいた。

「あ、そうそうヨーグルトもあったのよね」アヤさんが冷蔵庫から底の浅い、丸っぽい瓶に入ったヨーグルトを持って来た。

「これは、ヨーグルトだよ」

「へぇ・・固形なの・・ドイツじゃ、液体しか飲まなかったわ」

「はい、スプーン」

「ありがとう・・」少女はアヤからスプーンを受け取り、瓶についている、紙の蓋を剥がそうとしていた。

「剥がしてあげようか?」僕はつい言ってしまった。

「大丈夫よ・・」少女はフォークの先を使って蓋を開けた。

そして、瓶の口より少し小さいサイズのスプーンを突っ込んで、ヨーグルトをすくい、少女は口にした。

「これも、おいしい!」少女は一言言うや、夢中になってヨーグルトを食べていた。

「ほんと、このヨーグルトも久しぶりよねぇ」ミライもヨーグルトを食べながら呟いた。

子供の頃、一つしか無いヨーグルトを三人で分け合ったのを、僕は思い出した。


「ほんとに、ご馳走になったわ・・ありがとう」少女は、頭を下げた。

「こんな事で、引越しの挨拶なんて、おこがましいかも知れないけど、喜んでくれて嬉しいわ」

アヤさんも、大人に対するかのように、丁寧に返事をしていた。


その時、ドアを叩く音がした。

「ミドリさんかな?」僕は立ち上がって、玄関に向かって歩いて行った。

僕は鍵を開けて、扉を開けた。

そこには、20代後半の女性が立っていた。

黒い長髪を腰まで垂らしたその女性は、
なにか、近寄りがたい雰囲気を纏わせていたが、その表情は少し哀しそうであった。
少し細長い顔つきで、美人の範疇に入るかも知れない・・

「おっおまえは、渚シンイチ!卑怯な!娘を人質にして、我が身を守るつもりか!」女性は僕の顔を見るなり、そう叫んだ。

「え?」僕は訳が分からず、困惑した。

その時、居間の電話が鳴った。

「はい、碇です」アヤさんが受話器を取ったようだ。

「アヤ・・今すぐ、シンイチ君を連れてどこかに逃げろ!」

「どういう事?お父さん」

「守り切れなかった・・すまん・・」

「どういう事よ、パパ!」

僕は、その父さんとアヤさんのやりとりを聞いて、自分はもう、このような生活がいとめないのだと言う事を実感した。

「さぁ、娘を離せ!」その女性は僕の胸ぐらを掴んだ。

「ママ、どうしたの?」その時、少女が走り出して来た。

「その人は悪く無いの・・誘拐されたんじゃ無いのよ、ママ」

「この男が、ファーターを殺した渚シンイチよ!」

「えっ?」少女は、信じられないものを見るかのように、僕の顔を見た。

「今日の所は見逃してやるわ、渚シンイチ!」そういって、その女性は、少女を連れて駆け出していった。

「何だったんだ・・仇?僕が?」

僕は玄関の前で立ち尽くしていた。




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どうもありがとうございました!


第8話Cパート 終わり

第8話Dパート に続く!



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