「アヤさん……行かせて下さい」僕はアヤさんの目を見つめて言った。

「嫌……あなたの手を離せば……もう二度と会えないかも知れない……けど、もしミドリさんに何かあったら、
シンイチ君が後悔すると思うの……行かせたく無いけど……」アヤさんは涙を流しながら、掴んでいた僕の左手を離した。

「アヤさん……」

「帰って来てね……」

僕は黙って肯いて、エレカのドアを開けて外に飛び出した。

「シンイチ!」
「シンイチ!」
父さんとミライの悲痛な叫び声を背中で受け止めて、僕は走り始めた。

「シンイチ君……帰って来るのよ」


裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 09A

第9話【哀・戦士】Aパート





僕は鑑川のほとりに来ていた……

この橋を渡ると、現在、居住区では無い地域がある……

サードインパクトの騒乱の時期に街が焼かれたが、元々脆弱な地盤の為

この地域には何も建設出来ないので、捨て置かれているそうだ……

父さんの車から走り出て、ここに来るまで5分とかかっていなかった。

尤も兄さんの力を借りたからではあるが……


{見張りがいるかも知れん……橋は渡るな}

{{わかったよ}}僕は橋のすぐ脇の川の上に少しだけはみ出しているコンクリート製の枠の上を飛び跳ねていった。

僕は土手に向かって、小石を踏みしめながら河原を走っていた。

{その土手の先の廃屋の中にいるようだ}

「良く来たな!渚シンイチ」土手に上がろうとした時、土手の上にあの女性が現れた。



「何故、樹島さんを攫った!彼女は関係無いだろう!」

「関係はあるさ……渚シンイチと同じ家に住んでいたと言うだけで充分じゃないか!」

「父さんから話を聞いたけど、あなたのご主人は完全に洗脳されてたんでしょう?

誰もどうしようも無かったんだ……それに、風谷さんを助け出さなければ、日本は壊滅していたんだ……

確かにあそこで、あなたのご主人に出会った……だけど、あなたのご主人は洗脳されていて、僕に攻撃して来たんだ!

だけど、僕はあなたのご主人を殺した訳では無い! それに僕はともかく、僕の家族に罪は無いだろう!」
僕は土手の上にいる女性に向かって叫んだ。

「何を言うか!人に非(あら)ざる化け物が、貴族の名門ローレンツ家の次期当主の妻である、

このマリコ・ローレンツに意見する気か!」マリコと名乗った女性は吐き捨てるかのように言った。


「僕は……人間です……化け物じゃ無い!」

「うるさいっ」


「とにかく、樹島さんを離して下さい!」僕は諦めずに再び懇願した。


「連れて来なさい」マリコは少し逡巡した後、後ろを向いて言った。

樹島さんは身体をロープで縛られており、口には猿轡を嵌められたまま、

黒服を着たエージェントらしい男に連れられて土手の上に上がって来た。

その時、昼間であった少女も一緒に現れて、不安そうに、母であるマリコの服の袖を握った。


「あなたの娘さんを誘拐した訳では無いのは解って貰えたでしょう? 誤解は解けた筈です!彼女を離して下さい。」

「どうしても返して欲しいか……」マリコは微笑んだ。


「ええ……関係無い彼女を巻き込むぐらいなら……僕を……あなたの好きなようにしても構わない」
僕は右手を握り締めて言った。

「ほう、それはいい心がけだ……いいだろう  銃を!」
マリコは黒服を着た男からサイレンサー付きの銃を手渡された。


「この銃には5発弾が入っている。」
女性は銃からマガジンを取り出して、薬莢の数を数えて言った。

「この鉛弾を5発食らって立てっている事が出来たら、彼女は離してやろう……

心配するな……頭と心臓は外してやるよ……まぁ化け物のおまえの事だ……5発ぐらいで死にはせんだろうが、

レーザー銃と違って、鉛弾が身体に残るし、血も出る……少しは苦しんで貰わんと、主人に申し訳が立たんからな」

マリコは土手を降りながら言った。


「ママ!」少女もついて行こうとしたが、マリコがその手を払いのけた。

「5発ですね……わかりました……それであなたの気が済むのなら」僕は覚悟を決めて足場を固めた。

「22口径なのは、45口径じゃショック死するかも知れないからだよ おまえの苦しむ様を見るのには丁度いいさ 」

マリコは片手で銃を構え、躊躇せずに銃の引き金を引いた。


音もせずに弾丸は僕の左太腿に食い込んだ。

動脈に傷が付いたのか、血が次から次へと流れて行くのが感じられた。

「くっ」数秒後にはすでに太腿の感覚が無くなりかけて来た。
このまま放っておけば、失血死するかも知れなかった。

だが、次の瞬間には、右肩に弾が食い込んだ。

「もうちょっとそれたら顔に当たってたか……よかったな、顔に当たらなくて」マリコは笑いながら3発目を放った。


3発目は腹に打ち込まれた。

だが、腹筋で止まったせいか、派手に血は出なかった。

腹はじんじんと痛んでいたが、なんとか内臓までには達しなかったようだ……


「ふふ、この22口径は相手を苦しませるのには、一番いいんだよ……貫通力が無いから、身体の中に鉛弾が残るからね」

4発目は右胸に打ち込まれた。

「くっ」だが僕はマリコと名乗った女性の顔を見つめていた。

彼女の腕は小刻みに震えはじめているのが目に取れた。

銃口はいつしか僕の頭に向いていた。


いくら、人以上の力があるとしても、身体は生身なのだ……
だが、この痛みと苦しみは、自分が人間である事を確認してくれているような気がして、僕は笑みを浮かべながら言った。

「どうしたんです?撃たないんですか……」

マリコは顔を引きつらせながらも、引き金を引いた。

僕の顔に向けられた銃口を僕は見つめていた。
弾丸が僕の顔に飛んで来るのが、まるでスローモーションのように見えた。

だが、僕は……目を見開いたまま微動すらしなかった。

弾は僕の額へと飛んで来ていた……

「アヤさん……ミライ……ごめん」僕は静かに目を閉じた。




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どうもありがとうございました!


第9話Aパート 終わり

第9話Bパート に続く!



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