”シンイチ・・私はあなたの本当の姿を見たわ・・けどあなたの事嫌ったりしない・・
だって、シンイチの事・・好きなんだもん・・それは変わらないわ・・”

僕の全てを知って……初めて受け入れてくれたミライ……

”私は・・シンイチ君さえ無事でいてくれたら・・他に・・何も望まないわ・・”

アヤさん……ごめん……約束、守れそうにないよ


僕は薄れゆく意識の中で、皆の顔を思い浮かべていた。


裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 09C

第9話【哀・戦士】Cパート



首を締められ初めてから、どれぐらいの時間が経ったのだろう……

いつしか首を締める力が弱くなっているのに、僕は気付いた。

頬に涙が落ちたので目を開けると、涙を流しながら僕の首に手を添えているマリコさんがいた。

「あんたバカよ……私に同情して殺されようなんて思うなんて……あんたにも、あんたを必要としてる人がいるんじゃ無いの!」

「マリコさん……」どうやら、僕の思いが彼女に流れ込んでいたようだ……

「私わかってたの……あなたが悪い訳じゃ無い事も……だけど……だけど」

「ローラから聞いたの……ホットケーキ焼いて貰ったって……けど私はそんな事聞きたくなかった……

そんな事聞いたら決心が鈍るから……ほんとに、八つ当たりよね……ごめんなさい……」

マリコさんは僕の首から手を離した。


「あなたも、辛かったのね……あなたの思い、見せて貰ったわ……もし私があなたを殺してたら……
ミライさんとアヤさんに、私が絞め殺されてたかもね」マリコさんは手を差し伸べてくれた。

僕はマリコさんの手を掴んで起き上がった。

傷は癒えたとは言え、流れた血の量は多すぎたようで、ふらふらしていた。

「それより、娘さん……力を使い果たしてるみたいなので、早く手当てしてあげた方がいいですよ」

「あなたは大丈夫なの?」マリコさんが心配そうに言った。

変われば変わるものだ……復讐の為に僕を銃で撃った人と同じ人には見えなかったのだ。
だが、それも夫を亡す前はこのような穏やかな顔つきだったのかと思い、心が痛んだ。

「大丈夫ですよ……」

「報告書は今日書くから……あなたはもう、心配しなくていいのよ……」

「ありがとうございます……」

「それと、人質の件はごめんね……てっきり娘が誘拐されたと思ったものだから……」

「誤解が解けたんだからいいじゃ無いですか……」

「あなた……優しいのね」

「いえ……優しくなんか無いですよ……臆病なだけです……自分が人として認めて貰えるようにしてるだけですから……」

「ご主人の事は……本当に残念です……」

「いいのよ……エージェントだと言う事がばれた時点であの人の運命は決まっていたのよ……
幸い、ローラがいるから、ローラが成人するまでは私が後見人になるから……」

「それじゃ、帰ります……」

「……ごめんなさい」

僕はマリコさんに背を向け、土手の上を歩いていった。

「だめだ……ふらふらする……」僕は土手の上にうずくまった。

「家まで……帰り着けるかな……そうだ……」僕は腕時計のボタンを押して、目を閉じた。


「んっ」

目を覚ますと、白い天井が目に入った。

「ここはどこだろう……」僕は回りを見渡した。

「アヤさん!」僕の寝ている横のベッドに、アヤさんが横になっていた。

その腕には針が差し込まれており、どうやら、自分に輸血しているようだった。

「シンイチ君……目を覚ましたのね」少し顔の青ざめたアヤさんが目を開けた。

「ど、どうして!」

「お医者さんが言うには約30%も血が無くなってたそうよ……普通ならとっくに死んでる筈だって……」

「けど、A型の血液の在庫が無いなんて事」

「駄目だって……私もシンイチ君も普通のA型じゃ無いんだって……」

「そ、そうなんですか……」僕は父さんが言ってた事を思い出した。

「もう、僕は大丈夫ですから、早く止めて貰わないと」


僕は慌てて頭元にあったボタンを押してみた。

すると、白衣を着た医者と父さんとミライが駆けつけて来た。

「もう大丈夫ですから、アヤさんから血を取らないで下さい」僕は医者に懇願した。

「ん〜もう少し輸血した方がいいんだが……まぁいいだろう」医者は渋々輸血を中断した。

数分後、僕とアヤさんは処置室を出て、移動用のベッドに乗せられた。

「二人とも血液が少なくなってるので、今晩は入院して貰います……ただ……」

「何かね?」

「その、ここは病院では無いので、病室が一部屋しか無いのですが……」

「構わんよ……姉弟みたいなもんだ」

「そうですか、わかりました」


僕とアヤさんは、ベッドに乗ったまま、病室に運ばれた。

僕は着ていた服を脱がされて病院服に着替えさせられていた。


「アヤ……一部屋とは言ってもシンイチ君に手を出しちゃいかんぞ」
父さんが笑いながらアヤさんに言った。

「何か逆みたいな気がするなぁ……普通男の方に念を押すんじゃ無いかな」
僕はおかしくなって、笑ってしまった。

「シンイチ!喉乾いたでしょ」ジュースを手にミライが入って来た。

「何よ、これ二人とも同じ部屋なの?」ミライが僕とアヤさんを見て言った。

「しかた無いよ……部屋が一つしか無いんだから」父さんがミライに言った。

「NERVの病院でないと駄目なの?」

「まぁ、そういう事だな……車で30分ぐらいの場所には本格的なNERVの病院もあるんだが、
ここは、司令所の為の施設だからね」

「あ、シンイチ……正式にレポートが提出されたから、お前は自由だぞ」

「そうですか……」

「驚かないのか……」

「ええ……お互いの気持ちが分かりましたから……」

「そうか……」

「じゃ、アネキの分もここに置いとくからね」ミライが、電解質のスポーツドリンクを二本机の上に置いた。

「もう、遅いし私達は帰るから……良く休むんだぞ」父さんは部屋を出ていった。

「はい……」

「それじゃ、おやすみ」ミライも父さんの後を追って出ていった。

「もう夜だったのか……」僕はミライの置いていったスポーツドリンクのプルを捻った。

「アヤさんも飲む?」

「ええ」

僕はアヤさんの分もプルを捻ってアヤさんに手渡した。

僕はドリンクを飲み終えて机に置いて、口を開いた。

「今日は……アヤさんとの約束が守れそうに無かったけど……なんとか帰ってこれたよ」

「約束は守らなきゃ駄目よ……行くのは止めないけど……帰って来てね」

「うん……」


その頃

NERVの宿直の医者がカルテを見ていた。

「ふむ、こりゃ確かに姉弟みたいなものだね……DNA鑑定も精密検査の結果も良く似てるな……」

医者はカルテを置いてあくびを一つした。




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どうもありがとうございました!


第9話Cパート 終わり

第9話Dパート に続く!



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