「今日は……アヤさんとの約束が守れそうに無かったけど……なんとか帰ってこれたよ」
「約束は守らなきゃ駄目よ……行くのは止めないけど……帰って来てね」
「うん……」
裏庭セカンドジェネレーション
CHAPTER 09D
第9話【哀・戦士】Dパート
「本当に心配したのよ……車で駆けつけたら、シンイチ君は血だらけだし……私は貧血を起こしかけたわよ……」
「そうだったんですか……」
「まぁあれだけ血を流してたんだから、意識が無くなってて当然かもね」
僕はアヤさんとベッドの上に横になったまま話をしていた。
「輸血する時の針が太かったからちょっと恐かったけど……」
「そうだったんですか……」
「まだちょっと身体が痺れてて、起き上がれないけどね」
「うーん僕はどうにか大丈夫みたいですけどね……血を少し戻しましょうか」
「ううん、いいのよ……私の血がシンイチ君の血と混じってるって何か嬉しいし……」
アヤさんは少し頬を染めた。
「アヤさん……」
「ねぇ、シンイチ君……兄さんって誰なの?」
「……僕の身体の中に住んでるんです……何と言うか、純粋な力は兄さんが出してるんです……
僕は人の思いを読み取ったりしか出来ないんですけど……」
「けど、電子ロック開けたでしょ?」
「あれは、無我夢中でしたんで……良く覚えて無いんですけど」
だが、話している内に、アヤさんは何かもじもじし始めていた。
「どうかしたんですか?」
「何でも無いのよ……」そう言いながらも、アヤさんは頭元の呼び出し用のボタンを押した。
だが、いつまで経っても看護婦はおろか、医者も来なかった。
「どこか具合が悪いんじゃ無いんですか?」僕は不安になってベッドから下りて、アヤさんの額に手を当てた。
「やっ触らないで(おトイレ行きたい……どうして来ないのよぉ)」アヤさんが恥かしそうに言ったが、時はすでに遅かった。
アヤさんの思いが流れ込んで来たのだ。
「えっ……あっそうか起き上がれないのか……」
「言わないでよ……シンイチ君」
「押しても来ないんですか……困りましたね……どっちです?」僕はアヤさんに聞いた。
「……(シンイチ君の唯一の欠点はデリカシーが欠けてる点ね)」
「ご、ごめんなさい」
「いいのよ……正直に言い合おうって約束したんだものね……そのジュース飲んだから……」
「うーん……あ、これ何かな」僕はベッドの脇に置かれているものの、説明書を読んだ。
「えーと何なに?尿道カテーテル?これそうじゃ無いんでしょうか……抗菌パック外したら使えるみたいですよ」
「起き上がれないのよ……それがある事は知ってるけど、看護婦さんが……」
「……あ、そうか」僕は思わず頬を赤らめた。
「もう知らないっ」アヤさんは恥かしそうに横を向いた。
そんなアヤさんを見るのは初めてであったが、先日の事を思い出して、僕は思い出し笑いをしてしまった
「何がおかしいのよ……」
「いえ、この間の筋肉痛の時の事を思い出しまして……立場が逆だなと思いまして」
「もう駄目……我慢出来ない……」
「え?これを使うんですか?」僕はカテーテルを手に取った。
「そうじゃなくて、トイレに連れてって……」アヤさんは顔を真っ赤にして言った。
「あ、なるほど」
「シンイチ君もやっぱり男の子ね」
「……ごめんなさい」
「いいのよ……逆に安心しちゃったわ」
「それじゃ失礼して……」僕はアヤさんの背中に手を回して抱き上げた。
「えっ?肩を貸してくれるだけでいいのに」
「いいんですよ、トイレはすぐそこですから」
僕はアヤさんを両手で抱えたまま、病室を出て、トイレの前に立った。
幸い自動ドアだったので、トイレのドアは開いた。
僕はアヤさんを便座に降ろして扉を締めた。
「ここで待ってますから、終わったら言って下さいね」
「恥かしいから、外に出てて……」アヤさんの細々とした声が聞こえた。
「じゃ、僕もトイレ行ってきますんで」
僕は女性用のトイレを出て、隣の男性用トイレに入った。
「アヤさんのあんな表情見たの初めてだな……」僕は手を洗いながら思った。
再び、アヤさんを抱えて病室に戻り、数分が経った頃、看護婦が現れた。
「どこにいたんですか?ボタン押したのに……」アヤさんは怨むかのように看護婦さんを見た。
「先生も私も、ずっと控え室にいましたよ」そう言いながら、看護婦さんは呼び出し用のスイッチの元の部分を見ていた。
「あ、抜けてたみたいね」看護婦さんがコネクターを差した。
「押してみて」
アヤさんが押すと天井のスピーカーから医師の声が聞こえた。
「すみません、抜けてたようです」看護婦は医師に言った。
「じゃ、こっちのボタン押してたら良かったのか……」
「もう、知らないっ」アヤさんは顔を布団で隠した。
そして翌日の早朝
迎えに来た父さんのエレカで僕達は家路に向かっていた。
「今日は二人とも大事を取って休むんだぞ……学校には連絡しているから」
「それじゃ、私はそのまま学校に行くから、朝食はミライが用意している筈だ」
「いってらっしゃい!」僕とアヤさんは父さんを見送った。
僕とアヤさんは並んで玄関に向かって歩いていった。
(今日も一日シンイチ君といられるのね)
(昨日のアヤさん可愛かったなぁ………)
僕は玄関を開けた。
「おかえりなさい……」玄関には、ローラと呼ばれたあの少女が立っていた。
「え?確かローラちゃんだったっけ、どうしたの?」
「あ、おかえり、そこにご飯出来てるから」ミライが鞄を下げて出て来た。
「ミライ、この子どうしたの?」アヤさんが素朴な質問を口にした。
「あれ?パパから聞いて無い?この子とママがドイツに帰るまでの一週間の間、
この子を預かるって言ってたわよ、世話を宜しくね」そう言って、ミライは玄関を出ていった。
「聞いて無い(わよ)よぉ」二人の魂の叫びはユニゾンしていた。
次回予告はCM(感想フォーム)の後です。
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作者にも忘れられがちな不幸な少女、樹島ミドリ……
ついに、生別していた彼女の両親が帰国する事になり、
嬉しい筈なのに、何故か、ミドリの心は乱れていた。
だが、その理由を知る者はいなかった……
次回第10話【
ミドリ・心の狭間
】
第9話Dパート 終わり
第10話Aパート
に続く!
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