裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 10.5B

第10.5話【碇アヤの一日】Bパート

AM7:45

「あ、そろそろ時間じゃない?」私は腕時計を見て言った。

ミドリさんは少し前にローラを連れて保育園に出かけていた。

ローラは保育園を嫌がるのだが、友達も出来たようなので、まんざらでも無いらしい。

「お、もうそんな時間か」父さんは壁掛け時計を見て呟いた。

「しかし、このお好み焼きもうちょっと食べたいなぁ」お父さんが未練ありげに立ち上がった。

一皿を奇麗に食べて、御飯をお代わりまでしたのに……

「お昼も焼くから、それでいいでしょ?お父さん」私は笑いながら父さんに上着を渡した。
もっとも、この上着は通勤の時に、皆が着るだけである。
このような不要な習慣は止めて、半袖ワイシャツを制服にしようという動きもあるらしい。

「それじゃ行って来るよ」父さんは部屋を出ていった。

「後片付けしてから、行くから先に行っててね、ミライ」
普段はこの時間には後片付けを終えているのだが、今日は話が弾んでいたので、間に合わなかったのだ……

「それじゃ、行って来ます」ミライが鞄を持って立ち上がった

「手伝いましょうか?」

「いや、いいのよ」シンイチ君が言ってくれたけど……中学校の方が始業開始早いし……遅刻させたく無い。

「そうですか?じゃ行って来ます」シンイチ君はミライにせっつかれて、部屋を出た。

シンイチ君と一緒に登校できないなんて……今日は運が悪いなぁ

「今日はお昼からだから、私がやっとくから、アヤも学校行きなさい」お母さんが助け船を出してくれた。

「ほんと?じゃ、お願いします」私は鞄を持って、シンイチ君の後を追った。

「あら、アネキ、早いわね」ミライが私に気づいて声をかけた。

「お邪魔だったかしら?」私は笑いながら二人の横に並んだ

正確にはシンイチの横にだろ!

「あ、渚先輩おはようございます」背後から、シズカちゃんが走って来た。

私はいつも同じ家にいるんだから……

私はそっとシンイチ君との幅を広げた。

「シズカちゃん、おはよう!」私はシズカちゃんをシンイチ君と私の間に招いた。

「おはようございます、アヤさん ミライさん」シズカちゃんは走って来たのか、息を切らせていた。

みんなで談笑しながら学校に歩いて行った。

AM8:00

「じゃ、気を付けてね」私は三人と別れて、高等部へ向かう坂道を歩いていた。

「あっ、アヤ おはよう」後ろから駆け足で、女生徒が通りかかって、私に声をかけた。

「え、そんなに慌ててるなんて、もうそんな時間なの?」私は慌てて腕時計を確認しようとした。

「違うわよ、週番なのよ じゃぁね」親友の鈴原家の長女、洞木ミユキである 次女はシンイチ君と同じクラスにいるのだ。
鈴原家とは、家族ぐるみで付き合っているのだ。鈴原家なのに、何故洞木姓かと言うと、サードインパクトで、洞木家の長女と三女が
死んでしまい、次女のヒカリは、鈴原家に嫁いだ為、鈴原家に次女が産まれた時点で、洞木家に養子に入る事になったのだ。
残念ながら、そのようなケースは少なく無いのである。

「じゃ、私も付き合うわよ」私はミユキの後を追って走り始めた。

「悪いわね、アヤ 今日は重い教壇を動かしておかないといけないから、ちょうど良かったわ」

「いいのよ、帰りにNGマートでアイスカフェオレでも奢って貰うから」私は笑いながら言った。

「え〜今月お小遣いもうあまり無いのにぃ」ミユキは器用にも走りながらポケットから小銭入れを取り出して中を見ていた。

「Sカップでいいから」

「それならいいや」

「さ、急ごっ」

その程度のものを要求しても仕方無いけど、何も無しで手伝うと、ミユキは昔気質だから気にするのよねぇ
鈴原の叔父さんに似たのかしら……

AM8:10

私たちは教室に辿り着いた。

高等部の始業は8時半なので、まだ生徒の数もまばらだった。

「あら、ゲンちゃん 早いわね」私は同級生であり、また従兄弟の、六分儀ゲンに声をかけた。

「………」わずかに口が動いたようだが、殆ど聞き取れなかった。

「こぉら、ゲン!ちゃんと挨拶を返しなさいよ」ミユキがいつものように、ゲンに注意を始めた。

「いいのよ、ミユキ」

「さ、早く運びましょ」

「うん」釈然としないながらも、ミユキは作業を始めた。

「で、教壇をどうすればいいの?」

「一時限目で、スクリーン使うから、教室の脇にでも置いといて欲しいって先生が言ってたの」

「わかった、じゃ、こっちもつから、下を持ってくれる?」

「ゲン!何じろじろ見てるのよ」ミユキは、壁際に立っているゲンちゃんに声をかけた。

「いいから、初めましょ」

私は力を込めて、教壇を持ち上げた。

「いいわよ」ミユキも斜めにした教壇の下を持って声をかけた。

「よいしょ、よいしょ」掛け声をかけながら、私は後ろ向きに、壁に向かっていた。

ガリッ 私はなにかを踏みつけてしまって、バランスを崩した。

「アヤっ」私は教壇を持ったまま、後ろに倒れ込んだ。

だが、次の瞬間には、背中を誰かに支えられた。

「持ったから、どくんだ」私は声をかけられて、慌てて邪魔にならないように、教壇から離れた。

「ゲン……」私はミユキが呟いたので、振り向いた。

「ゲンちゃんだったの……ありがとう」照れくさそうに立っているゲンちゃんに声をかけた。

「女がこんな重い物持つんじゃ無い」そう言って、ゲンちゃんは教壇をひょいっとかかえて、教室の隅に置いた。

「一言多いのよね……ま、けどアヤを助けたのは偉いわね、ゲン」

「当然の事だ……」ゲンちゃんは、またもや無表情な顔つきを取り戻して席に付いた。

「チョークが落ちてたのね」ミユキが二つに折れたチョークを拾い上げた。

「けど、倒れたと思ったら、すぐにゲンが飛んできたわねぇ……」

「案外、ゲンはアヤの事好きなんじゃない?」

「まさか、ゲンちゃんはそんなんじゃ無いわよ また従兄弟だし……だから助けてくれたのよ」

「はぁ、それじゃゲンも報われないわね……まぁ、あんたの目にはシンイチ君しか写って無いんじゃしょうが無いわね」

「そ、そんな事無いわよ……」

AM8:30

HRが始まり、直前に駆け込んで来た生徒も席に付いた

「来週からテストだから、気を引き締めて勉強するんだぞ! 来年はおまえ達も三年生なんだからな」
いつも通りの堅苦しい台詞を残して、担任教師の木村リョウイチが教室を出て行った。

木村先生は、30歳になったばかりなのだが、いつも口調が堅苦しいものの、
たまに、切れた時なんかが面白いと言う事で、女生徒の間では、M'LKと呼ばれていた。
最初は、クラスの女子だけが使っていたあだ名なのだが、いつの間にかその呼び方がクラス全体に浸透しており、
陰では、ミルクちゃん とか えむえるけーさん とか呼ばれていた。
名づけ親は、洞木ミユキである。その由来はミスター リョウイチ キムラ だとか……

「あ、碇 ちょっと来てくれんか」そのミルク先生が戸を開けて私の名を呼んだ。

「はい」私は席を立って、教室を出た。

「なんでしょうか」

「いや、碇先生のいる中学校も今日は半日だそうだが、碇先生は昼に戻って来られるのか、知らないかな?アヤちゃん」

「もう、木村先生!学校でアヤちゃんは止めてくださいよ」

「はは、すまんすまん」

このM'LKこと、木村先生は、お父さんの教え子で、お父さんにあこがれて教師になったと言う事で、
学生時代から家に遊びに来てたのであった。

「お父さんは、お昼に戻るって言ってたわよ」

「そうか、それじゃ、昼過ぎにお邪魔するって、言っておいてくれないかな」

「ええ、いいですよ あ、お父さんは12時ちょいには戻りますから、一緒にお昼御飯を食べられたらどうですか?」

「いいのかい?アヤちゃん」普段は厳格さを漂わせているのだが、ふと緊張感が切れると、人懐こい本性がかいまみえるのであった。

「朝の残りの、ニラ入り卵焼き風お好み焼きなら一杯ありますから」

「ありがとう!アヤちゃんの料理なんて、久しぶりだなぁ」

「料理始めた頃、よく実験台になって貰った事ですし、ご馳走しますよ」

「それじゃ、12時過ぎに伺うよ」そう言って、木村先生は手を振りながら歩いていった。

AM8:55
後5分で一時限目が始まるので、私は教室に戻った。

「ミルクちゃんと何か話してたの?アヤ」前の席にいるミユキがこっちを向いて声をかけた。

「たいした事じゃ無いのよ」私は笑みを浮かべながら席についた。




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どうもありがとうございました!


ミユキとゲンの名前は、ishiaさんと江藤さんから御借りしました

第10.5話Bパート 終わり

第10.5話Cパート に続く!



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