裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 10.5C

第10.5話【碇アヤの一日】Cパート

AM9:00

一時限目は、倫理社会の授業で、プロジェクターを使って、ビデオが上映されていた。

「ふぁ」私は欠伸をかみ殺すのに夢中になっており、ビデオの内容があまり頭に入らなかった。

そうよね……昨夜は三時まで勉強して、6時起き……3時間しか寝てないから……

「だめ……眠い」私は椅子に座り直して、手を机の上に置いて、背筋を伸ばした。

そして、瞼を閉じて、眠りの世界にいざなわれていった。

上映中のため、室内が暗いのが幸いしてか、誰にも見咎められずに、私は熟睡する事が出来た。

「おい、碇!電気つけてくれ」私は先生の声で目を覚ました。

「あ、はい」私は壁についているスイッチを押した。

「試験勉強で疲れてたのか?碇」先生は苦笑いしながらプロジェクターの始末を始めた。

どうやら、居眠りをしていた事は先生にばれていたようだ……恥ずかしい

だが、居眠りしていたのは私だけでは無かったようだ。
この時期にビデオの上映って事は、私たちの為なのかも……

AM9:50

「アヤ、爆睡してたわね」前の席のミユキが声をかけてきた。
「え、気づいてた?」
「そりゃ寝息が聞こえてたし、寝言も言ってたわよ」
「嘘!」
「ほんとだってば」
「な、何て言ってたの?私」
「もう〜解ってるでしょ……あなたが夢で見ていた人の名前よ クス……」
「あ、嘘だったのね、ミユキ! もう……」
「ほら、次は体育の時間よ、着替えに行きましょ」
「あ、うん」

「水泳は私苦手なのよ……」私は水着に着替えて、ミユキや仲のいい女子と一緒に廊下を歩いていた。

「アヤにも、苦手な科目があるのね、安心したわ」
「学園のアイドル的存在であり、先生から取ったアンケートでも息子の嫁にしたい生徒部門でも首位よね……」
「そ、そんな……恥ずかしい」
「あんたも罪作りよねぇ……プールに面している教室は、この時間授業にならないわよ」
「そんな事無いわよ……」だが、事実であった。

AM10:00

私達は消毒水のプールを通り、シャワーを浴びて、プールに整列した。
A・Bクラスの女子が合同で体育の授業なのだが、男子達は校庭でサッカーであった。
なんでも、おととしまでは、組単位での体育の授業で、男子も女子も一緒にしてたそうなんだけど……
なんでかなぁ……

教師の主導による、体操が終わると、順番に並んで、自由遊泳が始まった。

「ふぅ……風が気持ちいい」私は順番を待ちながら、フェンスにもたれて、学校のある丘の風景を見ていた。

「アヤさーーん」声に振り向くと、一年生らしき女子が盛んに手を振っていた。
私は手を振り返すと、女子達は名残惜しげに窓を閉めた。

「あれ?なんだろ」キラっとなにかが光るものがいくつか教室の窓に並んでいるのに気づいた。

「も、もしかして、双眼鏡?やだ……恥ずかしい」私は順番が周って来た事もあり、慌ててプールに飛び込んだ。

双眼鏡ごしの視線から逃れる為に、50M先まで必死になって、クロールで泳いでいった。

「ぷはぁ」私はプールから上がり、先に泳いでいたミユキ達の所に歩いていった。

「何が、苦手なのよ……見事なクロールだったじゃない」友達の一人が口を膨らませていた。

「え?無我夢中で泳いで逃げてきたんだけど……」

「ははーん、覗かれてたのに、やっと気づいたのね」ミユキが笑いながら言った。

「知ってたなら、どうして教えてくれないのよ……恥ずかしい……」私はミユキに抗議した。

「こんな立派な胸してて、注目浴びない訳無いでしょ」と言って、ミユキが私の胸を指で弾いた。

「やっ」私は腕でガードした。

「あらあら、そこはシンイチ君の指定席だったかしら、ごめんあそばせ」そう言ってミユキはプールに飛び込んだ。

「もう……」

「ねぇ、アヤ……シンイチ君ってそんなに格好良いの?」
「そうそう、私も聞きたかったんだ」
二人に詰め寄られて私は答えに窮した。

「とにかく、優しいの……シンイチ君は」
私は、今朝、シンイチ君が片付けを手伝うと言ってくれた時の事を思い出して、つい頬を染めてしまった。

「アヤ、あなたそこまで行ってたの?男子達が聞いたら泣くわね」何か勘違いしたのか、友達の一人が呟いた。
「隅においとけないわねぇ、アヤ……今度連れて来なさいよ」もう一人も同調して言った。
「え、何か勘違いしてない?」だが、二人の目はトリップしていたので、私は順番になったので、プールに飛び込んだ。

この時、しっかり否定しておけば良かったと、後で後悔するのであるが、それを知る由も無かった。

AM10:30
体育の次の国語の授業……それも水泳の後だから……

端末を使った授業なんだけど、端末を見ていると、つい瞼が下がりそうで……
私は睡魔と戦っていた。
試験の範囲はとっくに発表済みだし、たいした授業じゃないんだけど……
一日に二回もいねむりする訳には……それに国語はM'LK先生だし……

眠いのを堪えながら画面を見ていると、コールマークが出ているのに気づいた。

「何かしら」私はコールマークをクリックした。

”シンイチ君とか言う中学生にあげちゃったって本当? Y/N” 薄いグレーの画面に、文字が点滅していた。

私は一瞬凍り付いたかのように、動きが止まったが、震える手で、打ちなれている筈のキーボードから
Nの文字を探し出して、押して、送信ボタンをクリックした。

だが、少しすると再びコールマークが現れた。

”あなたの友達に聞いたのよ……本当なんでしょ Y/N”

私は顔を赤くしながらも、Nキーを押して、クリックした

どうやら、30分の間で、噂が噂を呼び、噂に尾鰭や背鰭がついていたようだ。
私が知らなかっただけで、コールが無数に飛び交っていたに違いない。

”本当の事言ってくれたら、他のクラスや他の学年の人には言わないから……
で、どうなの? Y/N”

黙っていても、噂は止まないみたいだけど……決め付けられてるから否定しても……

取りあえず無視するしかないかな……

「本当だったら……いいんだけどな」私はなんとなく、Yキーを押した。
そう公言したら、付きまとう人減るのかな?
送信ボタンを押さなければ大丈夫なんだから……私はシンイチ君の事を思いながら、ぼーっとしていた。

「碇、この問題を解け」M'LK先生に指差されて私は慌てて、回答ウインドウを開こうとした。

「えぇ〜〜!」
「マジかよ!」

その瞬間、教室のあちこちから、驚嘆の声や怒号が響いた。

「え?え?」私は驚きながら、ふと画面を見るとさっきまで開いていた、
コールへの返信画面がなくなっているのに気がついた。

うそ……間違えて送信ボタン押しちゃったの……

次の瞬間には、女子や男子が私の机に詰め掛けて来ていた。

「兄弟でもないのに、同じ家に住んでるなんて、怪しいと思ってたのよ」
「僕の愛を受け入れてくれなかったのは、そいつがいたからなのかい?」
「で、そのシンイチ君って、どんな子なの?」
「あなたも中学生を相手にするなんて、やるわね」

聞くに耐えないような雑音に包まれて、私はおたおたしてしまった。

「あんた達、いいかげんにしなさいよ!」
「静かにせんかぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!」
ミユキとM'LK先生が同時に叫んだ。

二人の叫び声に驚いたのか、詰め掛けて来ていた人は正気に帰ったのか、
ぞろぞろと、自分の席に戻っていった。

「おまえら、明日から試験だというのに、余裕だな! ならこんな授業聞く必要無いだろ」
M'LK先生が立ったまま、怒鳴って、教室を出ようとした。

「自習だ! 静かにしてるんだぞ」そう言って、M'LK先生は教室のドアを閉めた。

ミユキからコールが来たので、私はミユキと会話を始めた。

「で、さっきの……どうしたの?」
「間違って……押しちゃったの…」
「NとYを間違えたの?」
「……そうだったらいいなって……って冗談でYボタン押したの……で、M’LK先生にあてられて、
回答しようとした時に、間違って送信ボタン押しちゃったみたいなの……」
「よくわかったわ……正直によく言ってくれたわね…」
「私がみんなに説明しておくから、トイレに行くとでも言って教室出てなさいよ」
「うん……そうする」私はミユキとのコールを終了した。

その時、

「おい、ゲン どこに行くんだよ」その時、ゲンちゃんが立ち上がって、教室を出ようとしていた。

「……」ゲンは声をかけた生徒をちらっと見て、そのまま教室を出た。

私は、トイレに行くとミユキに言って教室を出た。

私は廊下に出ると、廊下の壁にM'LK先生がもたれて立っていた。

「さっきゲンが飛び出していったが、何かあったのか?」

「さぁ?」私は皆目見当がつかなかったので、素直に答えた。

「こんな所じゃなんだから、指導室にでも行くか?」
先生が私に聞きたい事があるのかと思って、首を振った

AM10:45

私は進路指導室の椅子に座って、M'LK先生と向かい合った。

「で……本当なのか?」先生は顔に苦渋を浮かべて言った。

「え?」私は先生が言ってる事が分からず、間の抜けた返事をしてしまった。

「さっきの……事だ。 俺の画面にも出てたんだよ……」先生は言いにくそうに答えた。

「ち、違います……先生にあてられて、慌てて画面開いた時に間違えてボタン押しちゃったんです……」

「なんだ、そうか……そうだったのか…助け船の筈が余計な事しちゃったのか……はは」先生は急に緊張が切れたのか、柔和な顔を見せた。

「なんで、ずっと放っておいたんですか?」私は先生の不可解な行動に疑問を感じた。
それもそうだ。画面に出ていたのなら、最初の段階で叱れば話は終わっていたのだ。
恐らく、同報送信にしていたのだろうが、先生の端末にまで届くとは思っていなかったに違いない……

「……俺も……知りたかったからだよ……」先生はハンカチで汗を拭きながら私の目を見ずに答えた。

「どういう事です?」私は先生が何を言いたいか解らなかった。

「今日……碇先生に会いたかったのも……アヤちゃんが再来年卒業したら……交際を許して欲しくて……それで……」
私にもようやく、先生の言いたい事がわかって来た。

「え?学生時代には私のおむつを替えたとか言ってませんでしたっけ……」
自分が先生の恋愛対象になっているなんて事が自分では信じられなかった。

「アヤちゃん……君がそんなに魅力的になって、僕の教え子になるだなんて……思わなかったよ……」
先生はぽつりぽつりと語ってくれた。

「すまん……忘れてくれ」そう言って、先生は進路指導室を出ていった。

私は呆気に取られていたものの、3時限目の終わりを告げるチャイムで、我に返った。




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どうもありがとうございました!


第10.5話Cパート 終わり

第10.5話Dパート に続く!



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