裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 10.5D

第10.5話【碇アヤの一日】Dパート

AM11:00

私は休み時間の終わりを告げるベルが鳴り終わる直前に、教室に戻って来た。

「トイレにしちゃ、長かったわね アヤ」ミユキが小声で語り掛けて来た。

「うん……ちょっとね」私は椅子を引いて、席に座りながら答えた。

ミユキが耳を寄せろというジェスチャーを示したので、私は身体を乗り出して、耳を傾けた

「事情は説明しといたから……」
「ミユキ、ありがと!」

なんとか、誤解も解けたようなので、私はほっとした。

「ところで、ゲンがまだ帰って来て無いんだけど……会わなかった?」
「私は会ってないけど……」

その時、教室の扉が開いて、4時限目の科学の教師が入って来たので、私たちは話を中断した。

「起立、礼、着席」週番のミユキが号令をかけた。

「おや、今日は欠席がいない筈なんだがな……」科学の教師が手にしている端末から情報を引き出した。

「いないのは、六分儀ゲンか……何か聞いてないか?」科学の教師は週番である、ミユキに声をかけた。

「いえ……何も聞いてません」

「そうか……あいつは、態度は悪いが、遅刻早退欠勤はしないので有名だったんだがな……」
科学の教師は手元の端末になにかを打ち込んだ。

「それでは、授業を始める」

AM11:50

「来週から試験だし……今日の昼からが勝負よね アヤ」ミユキが話しかけて来た。
「ミユキったら、また一夜漬けなの?」
「時間が経ったら駄目なのよ 私は!」
「アヤは優等生だから、試験の心配なんか無いわよねぇ……」
「何言ってるのよ……いつも一夜漬けなのに、10位ぐらいをキープしてるじゃないの
だから、毎日試験勉強してたら、私よりいい点取れると思うのに……私は努力してこれなんだから」
「はいはい、またアヤのお説教が始まった」ミユキは両手を上に上げてため息をついた。


AM12:16

私達は、中学校(通称:中等部)の屋根を見ながら、帰途に就いていた。

「ミユキっ NGマートでアイスカフェオレ……忘れて無いわよね」

「えぇ〜〜アヤがトイレに行ってる間に、根回しして、誤解を解いてあげたじゃない」

「ミユキっ 昔の偉い人が残した言葉を教えてあげるわ」私はいたづら心を出して、ミユキに言った。

「何よ……」

それはそれ!これはこれ! よ

「アヤ……」

「冗談冗談、ミユキに私はアイスカフェオレを奢ってもらうんだけど、
根回しのお礼として、私からアイスティーを奢ってあげるわ」私は笑いながら言った。

「それなら、いいわ NGマートね! 早く行きましょっ」ミユキは坂道を駆け降り始めた。

「ちょっと待ってよ ミユキぃ〜」私は慌ててミユキを追って走り出した。


AM12:30

私達はNGマートの屋上にエレベーターを使って上がって来た。

昼過ぎという事もあって、OLや主婦や若い女性がソフトドリンクや、軽食を持ってくつろいでいた。

「それじゃ、アイスカフェオレのS と、アイスティーのM を一つづつ下さい」ミユキが注文をした。

「ちょっと、ミユキ……」私は慌ててミユキの方を見たが、ミユキは舌を出して笑みを浮かべた。


「そりゃ、Sサイズとは言わなかったけど……」私はSサイズのアイスティーを奢る予定だったので、少し面くらっていた。

「うそうそ、走って喉乾いたからさ」そう言って、ミユキが差額を差し出した。

「さっき、アヤにしてやられたから、そのおかえしよ」
「ミユキをからかうと後が恐いって事……良くわかったわよ」私は自然と笑みが浮かんで来た。

AM12:40

「さて、買い物して帰らなきゃいけないし、それじゃまた明日!」私は鞄を持ってミユキと別れた。

「生鮮類は、いつもの所で買うから……あっティッシュペーパー5箱で600円?」私はチラシを見ながらNGマートの中をうろついていた。このNGマートは、香港経由で仕入れられた大量の商品が廉価で発売されてるので、まとめ買いする時はいつもここに来ているのだ。


「あっ、アヤがいたわよ」
「アネキっ」

その時、ミユキとミライが走り込んで来た。

「どうしたの?二人とも」私はきょとんとしてしまった。

「シンイチが、また従兄弟のゲンに連れて行かれたの」ミライが胸を押さえながら言った
「そこで、ミライちゃんと会ったから一緒に探してたのよ」

「ゲンちゃんと、シンイチ君が?心配するような事あるの?」

「普段と様子違ってたから……シンイチは笑ってついていったんだけど……」
「アヤ……もしかしたら、ゲンはやっぱりあなたの事が好きなんじゃない?」

「そ……そんな」私は、M'LK先生の私への思いにもこれまで気付かなかった事もあり、
否定しきれなかった。
「それに、誤解を解く前に教室を出てったから、ゲンは勘違いしたままなのよ」

「どこに……行ったのかしら」私はいても立ってもいられなくなった。

「坂を上がって行ったから、高等部との境にある公園だと思うんだけど」ミライも所在なさげに足を震わせていた。

「それじゃ、ミライ 行きましょう」
「うん!」
「じゃ、私は碇先生を呼んで来ようか」

「駄目よ、ミユキ!これは私達の問題なの……それに一夜漬けしないと駄目でしょ」私はミライと共に駆け出した。

「坂だし……走って間に合うかしら…」私は内心いらつきながらも、スーパーを飛び出た。

「アネキっ危ないっ」

キキィ〜 その時、強制制動装置で、一台の商用のエレカが私の寸前で停止した。


「だっ誰だ!危ないだろっ」ドアを開けて、前掛けをした男が飛び出て来た。

「あっ、江藤屋さん!」偶然にも車を運転していたのは、行き付けの魚屋の息子であった。

「なんだ。アヤちゃんか……気をつけないと駄目だよぉ 強制制動が無かったら死んでた所だよ」

「ごめん、江藤屋さん!急いでるのっ ごめんなさい」

「おいおい、急いでるなら乗ってけよ」江藤屋の息子が声をかけてくれた。

「本当?じゃ、高等部の下の公園までお願いね」私は後部座席のドアを開けて乗り込んだ。
ミライも、隣に座り込んだ。

「よーし、飛ばすから、なにかに掴まっといてね」そう言って車を急発進させた。

「だ、大丈夫なの?エレカでこんなスピード……」私は心配になって声をかけた。

「大丈夫だよリミッター解除装置付けてるから、モニター上では制限速度だよ おっと」
車は、学校へと向かう坂に入っていった。

坂に入ると、多少カーブがあるので、私は舌を噛みそうだったので、口を閉じた。

AM12:50

私達を乗せたエレカは、高等部と中等部の間にある公園に急停車した。

「ありがとうございました! このお礼はまた今度にでも」

「いいって事よ、アヤちゃんの為なら、何でもしてやるよ」
そう笑って、エレカは坂を下りていった。

「シンイチ君を探しましょ」

「どこにいるんだろ……」

「ミライ……私達には便利な能力があるじゃない……シンイチ君限定の能力だけど」

「アネキもなの?」

「話してる暇は無いわ シンイチ君に呼びかけましょ」

私は精神を統一して、シンイチ君に語り掛けた。

{{{シンイチ君……シンイチ君……どこにいるの? 答えて……}}}

{{アヤさん……記念植樹のすぐ近くです……}}

私はシンイチ君の声がかすかに頭の中に響くのを感じた。

「ミライっ 記念植樹の近くだそうよ!行きましょう!」私は記念植樹のある場所に向かって走っていった。

「アネキ……」ミライも少しして後を追って来た。


PM1:00

「いたわよっ」木の向こうに、シンイチ君とゲンちゃんが向かい合っているのが見えた。

「アネキっ 早くいきましょ!」

「ちょっと待って……」
私はミライの手を掴んで走り出すのを止めた。

「特に何もしてないみたいだし……様子を見ましょう」
私達は息を潜めて、事のなりゆきを見守った。

「シンイチ……おまえはシンジ叔父さんの温情にすがってるだけだ……そんなお前がアヤと対等に付き合えるのか?」

「……」

「おまえが高校を卒業して、一人前になってから、交際するのならいい……だが今のお前が手を出していい相手じゃないんだよ」
普段はろくに話さないゲンにしては饒舌であった。

「ゲンさんが何を言いたいかは解ってるつもりです……」

「解ってて、何故手を出した? え? アヤはおまえが可哀相だから、手を差し伸べたんだろう?」

「だから……そんな事してません……アヤさんを慕ってるのは否定しませんけど」

「ミライ、中学校に行って誰か先生を呼んで来て貰える?」

「わかった……」ミライは垣根を乗り越えて、中等部の敷地に入っていった。

私は一人、木のかげから二人を見ていた。


「まだ否定するのか……」ゲンちゃんの右手は震えていた。

私は慌てて飛び出そうとしたが、誰かに肩を掴まれてしまった。

「木村先生……」私の肩を掴んだのは、担任の木村先生であった。

「ゲンの奴も、心の中じゃ解ってるんだよ……だから一発……殴らせてやれ」

「そんな!シンイチ君は何もしてないのに……」

「俺がここにいる理由が解るか……」木村先生は小声で言った。

「俺もゲンと同じように、シンイチを呼び出して、腹割って話そうと思ったんだよ……シンイチが悪いわけじゃ無いが……
俺も教師じゃ無かったら一発殴ってやりたいところだよ……アヤちゃんの愛を一人占めしてるシンイチをな。」

その時、ゲンちゃんが、シンイチ君に殴り掛かった。

だが、腹を一回殴っただけで、背を向けて立ち去っていった。

「ゲンちゃん……」

「そっとしといてやれ……さて、振られた者同士、傷でも舐めあってくるか」木村先生は笑いながらゲンちゃんの後を追っていった。

「シンイチ君……」私はシンイチ君の元に走っていった。

「おなか、大丈夫?シンイチ君」

「うん……大丈夫だよ……アヤさん」シンイチ君が微笑んだ。

「良かった……」私は安堵のあまり涙を流してしまった。

「アヤさん……泣かないでよ……なんとも無いんだから」シンイチ君がおろおろしながら、そっとハンカチを差し出した。

「ありがと……シンちゃん」私はそっと涙を拭った。

「アヤさん……もし、僕がアヤさんとこういう形で出会って無かったら……どうなってたでしょうね」

「多分……どんな出会いでも、シンちゃんの事……好きになったと思うわ…どんな姿でいようとも……」

「アヤさん……」

「二人きりの時は、アヤって呼ぶ約束でしょ……シンちゃん」私は心配そうに覗き込むシンイチ君の背中に手を回した。

「アヤ……」シンイチ君は少し頬を染めながら、そっと唇を重ねてくれた。

木漏れ日に照らされながら私達はお互いを抱きしめていた。



日記に付けておかなくちゃ……今日はシンイチ君がキスしてくれた記念日だもん


年に何回記念日があるんだ?




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どうもありがとうございました!


第10.5話Dパート 終わり

第10.5話Eパート に続く!



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