「ふぅ 美味しかった」シンイチ君はまるまる二枚のお好み焼きとおむすびを4つ 全部たいらげてくれた……嬉しい(ハァト)
「あ、シンイチ君……ほっぺにソースが付いてるわよ」
「取ってくれます?」シンイチ君は私の向こうにあるティッシュの箱を見ていたが……
「取ってあげる」私は腰を浮かして、シンイチ君のほっぺに付いたソースを舐めとった。
「美味しい……」
「アヤさん……」

シンイチ君の優しい目で見つめられると……


裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 10.5F

第10.5話【碇アヤの一日】Fパート


PM2:30

その時、誰かが階段を降りてくる音に私は気付いて、シンイチ君から離れた。

「アヤお姉ちゃ〜ん プリン食べるのぉ〜」扉を開けて、ローラちゃんが現れた。

「あ、ちょっと待ってね 上で食べる?ここで食べる? ローラちゃん」私は笑みを浮かべて言った。

「ミドリお姉ちゃんは勉強始めたから、プリン食べてお昼寝するの」

「下の寝室を使えばいいよ」シンイチ君がスプーンを取ってきてローラちゃんに渡した。

「そうするね」ローラちゃんは椅子に座って、プリンの容器の蓋を嬉しそうに開けていた。

「ねぇ、お皿に乗せる?」

「私はこれで食べるのが好きなの」そういってローラちゃんは容器のまま食べ始めた。


私はローラちゃんが食べるのをじっと見ていた。

私の横にはシンイチ君がいてくれて……可愛い子供がいれば……幸せだろうな……

私はふと、その思いに駆られて隣にいるシンイチ君の顔をそっと覗き込んだ。

シンイチ君も優しい目でローラちゃんを見つめていた。

私の視線に気付いたのか、シンイチ君はテーブルの下の私の手をそっと握ってくれた。

シンイチ君……シンイチ君さえいてくれたら……他になにも……いらない

だが、そう願う心とは別に、何故かシンイチ君との絆は細くて捕まえにくいもののように考えていた。


物思いに沈んでいると、一生懸命プリンを食べていたローラちゃんが突然顔を上げた。

「ごちそうさま!」ローラちゃんは容器とスプーンを持って流し台まで持っていったようだった。

「それじゃ、試験勉強しましょうか……」

「うん ローラちゃんを布団に寝かしてから上がるよ」
「私も洗いものしてからだけどね」私は腕をまくって、洗い物を始めた。


PM2:40

「ざらざらした手で嫌われたくないものね……そういえばお漬物どうしようかしら」
私は洗いものを終えて、手を拭いた後にハンドクリームを塗っていた。

「そうだ、ユイおばあちゃんなら何か知ってるかも……今度電話で聞いてみようかな」
私は階段を上がりながら今朝の事を思い出した。

ミドリさんの部屋では、ミライの声も聞こえていた。
恐らく二人だけだったので、教えあっているのだろう……

シンイチ君の声はしなかったので、自室にいるのだろう。


私は自室に入って、教科書代わりの端末の電源を入れた。

端末が立ち上がるまでの間に普段着に着替える事にした。


「前々年度の試験問題やってみようかな……」私は回線を繋いで学校のデータベースにアクセスして、試験問題集をダウンロードした。


PM3:30

「採点っと」私は主になる5教科の試験問題集を解き終えて、機械に採点させながら一息ついていた。
紙に手で書く訳ではないので、問題さえ解れば短時間で問題集を解く事が出来るのだが……

それ以外の教科は楽勝なものばかりなので、的を絞った勉強をしていた。

「96点かぁ」私は目頭に指を当てて目を閉じていた。
本来半日はかかる試験を一度にやったのだから無理も無い。

「目薬さそうかな」私はビタミン入りの黄色い目薬を取り出して目にさした。

「紅茶でも入れようかな……ちょっと眠いし」私は欠伸をかみ殺しながら部屋を出て階段を降りた。


4人分のバラの香りのする紅茶を入れて私は階段を上がっていった。

私はミドリさんの部屋を片手で軽くノックした。

「どうぞ」

「お勉強進んでる?」私はテーブルの上に二人分の紅茶を置いた。

「わぁいい香り」ミライは目を閉じて香りを嗅いでいた。
「頂きます」ミドリさんも嬉しそうに紅茶カップを両手で持って、紅茶を飲み始めた。

「解らないところない?」

「国語ぉ〜 ねぇアネキぃ」ミライが参考書の一点を指差していった。

「この文字、何と読むの?」ミライが指差していたのは、四字熟語の問題だった。

「お父さんに聞く訳にはいかないものね……それは”ぜんしんけいれつ”って読むのよ」

「じゃこれは?」

「それは”てんぱきょうらん”よ」

私はいくつかの質問に答えた後部屋を出て、紅茶を乗せたトレイを手に隣のシンイチ君の部屋のドアを叩いた。

「あ、どうぞ」シンイチ君の声を聞いて私は何故かほっとした。

「一息入れたら?」私はシンイチ君の机に紅茶を置いた。

「あ、すみません……丁度解らない問題があって煮詰まってたんですよ」シンイチ君はティーカップを手にして言った。

「じゃ、飲み終えたら教えてあげるね」私は床に正座して、紅茶を飲み始めた。

「ねぇ、シンイチ君も来年は高校受験ね」

「そうですね……」

「シンイチ君はどこの高校に行きたいのかな?」

「わかりません……」

「シンイチ君の行きたい所にしたらいいよ……どうせ入れ違いで私は高校卒業なんだもん……
私もシンイチ君と学園生活してみたかったな……」普段心に秘めていたのに、今日は何故かその言葉を容易く口にする事が出来た。

「しょ、小学校の時は三年間一緒だったじゃ無いですか……」シンイチ君は困ったかのように言った。
「もう……シンイチ君ったら……」
「そういえば、来月、高等部の文化祭ありますよね……高等部に遊びに行きますよ」
中等部は一年おきに体育祭・文化祭なのだが、高等部は毎年両方やっているのだ。
だから、高等部だけの単独の文化祭も二年に一度あるのであった。
今年の中等部は体育祭なのであった。

「ふふ、ありがと シンイチ君」

シンイチ君も、紅茶を飲み終えたようなので、解らない問題を解けるように、個人教授を初めた。

小学校から使ってる学習机なので並んで座る事が出来ないので、私はシンイチ君の斜め後ろに立って指導する事にした。

「この数式が解らないんだけど……」
「じゃ、最初からやってみて」
「えーとXがこれで、Yの二乗で……」シンイチ君が小声で呟きながらノートに計算式を書いていった。

「あ、そこは違うのよ…… シンイチ君」
「こうですか?」
「そんな事しちゃだめ……」

「あ、そうそう そこなの」

「なかなか筋がいいわね……シンイチ君」
「そうですか?」
「うん……」

私はいつしかシンイチ君に密着して、指導していた。

シンイチ君の身体……暖かい……

(アヤさん……そんなに……押し付けないで……お願いだから)
その時、シンイチ君の思念が流れて来たので私は身体を少し離した。


くぉらぁ〜 アネキぃ〜その時ドアを開けてミライがシンイチ君の部屋に入って来た。

「どうかしたの?ミライ」私は振り向いてミライにいった。

「ミライも数学解らないの?」シンイチ君も突然の闖入者に驚いていた。

「え?」ミライは茫然としていた。

「ミライにも数学教えてあげるわよ どうしてそんな大声出すの?」私はミライに問い掛けた。

「紛らわしい教えかたしないでよ アネキ! それじゃ年下の教え子を手にかける家庭教師みたいじゃないのぉ〜」
ミライは顔を真っ赤にしながら部屋を出ていった。

ミライよ……怪しい本の読みすぎだ……

「ミライ、どうしたんだろ……」

「ねぇ、おかしなミライ……さぁ、勉強を続けましょう」


PM4:00

「これで、解らない公式は全部理解出来たわよね」

「ええ、アヤさんのおかげです」

「シンイチ君は前回の試験で、学年何位だっけ」

「21位でした」
「今回は苦手なの克服したから順位上がるかもね……」

「そうだといいですね」

「もし、学年10位に入ったら、何かご褒美あげるね」

「そんな、いいですよ」

「いいのいいの遠慮しないのっ 私で出来る事なら何でもいいわよ」

「何でもいいんですか?本当に」

「うん……シンイチ君の望みなら何でも……(ポッ)」

「じゃ……10位に入ったら……僕の為にこれからも……御飯作ってくれますか?」

やだ……それってプロポーズ? ……シンイチ君ったら……嬉しい


「アヤさん アヤさん どうかしたんですか?」

「あ、ごめんね なんでも無いの……でご褒美は何にするの?」

妄想かい!

「それじゃ……こないだアヤさんが学校の実習で縫ったサマーセーター貰えませんか?あれ男物でしょ」

えっ どうしてその事知ってるのかな……いまいちの出来だったから今作り直してるんだけど……

「駄目ですか?」

「そ、そんな事ないわよ 試験の発表の頃までには仕上げておくからね」

「じゃ、晩御飯の支度があるから、後は頑張ってね」

私は階段を降りながら、プレゼントするサマーセーターの事を考えていた。
「そうだ!刺繍入れようかな……SINICHI&AYA とか……えへ」

アヤはそんな事を考えながら階段を降りていたので、階段を一段踏み忘れてしまい、
危うく足を滑らせる所であったが手すりを掴んで難を逃れた。

「恐かった……」アヤは涙目で呟いた。

妄想するのには時と場所を選びましょう。




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どうもありがとうございました!


第10.5話Fパート 終わり

第10.5話Gパート に続く!



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