裏庭セカンドジェネレーション
CHAPTER 10.5H
第10.5話【
碇アヤの一日
】Hパート
PM6:40
「”
シンイチ君がこの家にいてさえしてくれたら何も望まない
”か…… 私がそう信じ込みたいだけなのかも」
私は先程の事もあり、勉強がなかなか身につかなかった。
「もう6時半か……着替えておこうかな」私は端末の電源を落として、外出着に着替え始めた。
「シンイチ君、準備出来たかな?」私は斜め前のシンイチ君の部屋の扉の前に立った。
「いっけない、ミライやミドリさんにはまだ言ってなかったっけ」私はそんな事を考えながらドアを開けた。
ドアをノックしてなかった事を、開けてすぐに思い出した。
「アヤさん・・」シンイチ君は不自然な体勢のまま凍り付いていた。
シンイチ君がズボンを穿き替えていたのだ。
「ご、ごめんなさい」私は慌ててドアを閉めた。」
「私ったらほんとに慌て者なんだから……けど……得しちゃった」私はミドリさんの部屋の前に歩いていった。
「ごめんなさい、伝えるの忘れてたんだけど、7時から、みんなで外で晩御飯だから、着替えておいてね」
私は返事を確認してから、シンイチ君の部屋のドアをノックした。
「ど、どうぞ」
「さっきはごめんなさい・・シンイチ君」
「そんな事で謝らないで下さいよ」
「どうかしたんですか?」
「理由が無いとここにいては、いけないの?」
「そ、そんな事無いですよ……ここはアヤさんの家じゃないですか」
「シンイチ君……ここはシンイチ君や私達を育んだ、みんなの家なのよ……そうでしょ」
「アヤさん……」
「もっと堂々としててよ シンちゃん」私は微笑みながらシンイチ君の手を両手で軽く握った。
「はい……」
見ていると吸い込まれそうな紅い瞳に私の顔が映っていた。
「あ、お母さんが戻って来たみたいね」私は裏のガレージの門扉が開く音に気付いた。
「さ、行きましょっ」私は握っていたシンイチ君の手を離した
「は、はい」
私は各部屋に、お母さんが帰って来た事を伝えて、階段を降りた。
PM7:00
6人掛けの席にローラちゃん用の小さい椅子を加えて貰って、私達は席についた。
窓側の席に左からミドリさん とお父さんとお母さんが座り、ミドリさんの席の斜め横にローラちゃんが腰掛け、
反対側の席の左にミライが座って、その横にシンイチ君が座り、私は右に座っていた。
この座り方は、ミライとの間で酌み交わされた暗黙の了解であり、
左右はどうでも良いがシンイチ君を真ん中に持って来るようにするのであった。
「ミドリお姉ちゃん……これおいしそうだけど何?」
「それは……お子様ライスよ それにしたら?」
「うん!そうする」
「シンイチ君はもう決めた?」
「ハヤシライスにしようかと思ってます」
「ここのハヤシライス美味しいものねぇ 今度家でハヤシライス作ってあげようか」
「楽しみに待ってます」
「私はカレードリアにしようかな」ミライがメニューを見ながら言った。
「あなたはどうするの?」お母さんがお父さんに聞いていた。
「うーん 悩んでるんだよ……一口ビーフカツも捨て難いし、カツ丼もいいなぁ」
「もう……相変わらずね……中学生の頃と変りゃしない
両方取ればいいのよ 私が片方を食べてあげるから、途中で交換しましょ」
「そ、そうだね」お父さんは少し照れながら答えた。
そうか……そういう方法もあったのね……
「アヤさんは決めたんですか?」シンイチ君が私の見ているメニューのページを覗き込んだ。
「食べた事無いのにして、私のレシピリストに加えたいんだけど、新メニューが二つもあるから……」
「ビーフストロガノフとジャワ風カレーですかぁ」シンイチ君はメニューの中でNEWの文字が点滅している料理の画像を見ていた。
「じゃ、シンイチ君が家で食べてみたい料理にしようかな……」
「いいんですか? じゃ、ジャワ風カレーかなぁ」
「ジャワ風カレーね じゃ注文してレシピをメールに転送っと」私は布張りの薄手のメニューを指で押した。
料理の一覧が出ていた画面は、オーダーフォームに早変わりし、数量を打ち込み、レシピオプションを押すと、
メールフォームに画面が変り、画面のカーソルがメールアドレスの入力を促していた。
注文した料理のレシピは無料で転送して貰えるので、私はこのレストランが気にいっていた。
「シンイチ君はハヤシライスね お父さん達は、一口ビーフカツ定食とカツ丼でローラちゃんはお子様ランチね」
私は逐次オーダーフォームに入力していった。
「ミライとミドリさんはもう決まった?」
「うん・・ミドリさんはミートソーススパゲッティと、ライス 私はスパゲッティカルボナーラとミックスサンド」
私は言われるままにオーダーしていった。
「確認したから送信するね」私は指で画面を押して、送信が完了した事を確認して、
布張りのメニュー用薄形端末をメニュー立てに置いた。
きっかり5分後には、全員の料理が揃っていた。
一番時間のかかる料理の完成予定時刻に合わせて、他の料理を作るのである。
昔は料理人が頭の中で考えて調整をしていたそうだけど、今では作業の指示は
料理専用のコンピュータ任せだそうだ。 だから誤差無く並べる事が出来るのがいいよね
「それじゃ、いただきます」私達は食事を始めた。
私達は歓談しながら食事をしていた。
「あ、そうだシンイチ君……ジャワ風カレー食べてみない?それによってレシピを修正するから」
「じゃ、食べてみます」
「はい、どうぞ」私は皿を隣の方に寄せていった。
「うん、これ凄く美味しいですよ 辛口なのにマイルドで……このままでも充分美味しいです」
「気にいったなら、それ食べる?」
「いいんですか?」
「今度ハヤシライス作るから、私がハヤシライス貰おうかな」
「あ・・はい」
私は作戦が成功して、少し頬を緩ませながら、
シンイチ君が使ってたスプーンでハヤシライスを食べ始めた。
「美味しい……(
ハァト)」
「なんか腹が立つわね……」ミライがすねてるようだけど……仕方無いよね父さん達も私達も取り替えてるんだもんね
「ねぇ・・スパゲッティ取り替えない?」ミライは隣のミドリさんに語り掛けた。
「私もカルボナーラ食べてみたかったの」
どうやら、交渉はすんなり成功したようである。
「お腹張っちゃった……ねぇシンイチ……このサンドイッチ食べてくれない?」
「うん……いいけど」
ミライもやるわね……サンドイッチに目が無いシンイチ君の為にサンドイッチを注文するなんて……
こうして、食卓の上での攻防は終わりを告げようとしていた。
PM7:30
食後の飲み物を注文して、飲み終えた私達はレストランを出て家路に向かっていた。
「そういえば、来月は中等部は体育祭よねぇ」お母さんがシンイチ君に問い掛けた。
「ええ、そうです。来月の10日ですね」
「10日ね 予定を空けて置かなくちゃ」
「そういえば……レイとシンジと私とで三人四脚したっけ……」
「アスカ……」
「シンイチ君のお母さんと一緒に?」
「ええ、そうよ最初は二人三脚の筈だったのに、ミサトとヒカリに図られたのよ……」
「昨日の事のように想うよ……あの頃の事が無性に懐かしくなってね……
なまじ中学校時代を過ごした学校で教師なんかやってると特にね」
「そういえば、あの時の体育祭の時のビデオが無かったかな シンジ」
お母さんもお父さんの事、シンジだなんて呼んじゃって……いいなぁ私も歳を取ってもあんな感じに……
「そういえば、こないだ書斎の整理してた時に、なんか見覚えのあるラベルの張ったディスクがあったと思うけど」
「あの騒動でなくしたと思ったけど、あったのね!良かったわね シンジ」
「それ……僕の……母親も写ってるんでしょうか……」
「写ってるわよ……そうよね 母親の顔も覚えて無かったのよね……レイは、色白でそりゃぁ可愛い子だったわ
けど、いつも控えめで……それでも強さを持った子だった……私はとても真似出来そうに無かったから……
せめて私の子供はあんな風に育てたいと思って、綾波レイの名字からアヤを取って、あなたに付けたのよ……アヤ」
シンイチ君のお母さんの名前から……これもシンイチ君との絆かな……
「じゃ、帰ったら早速見ましょう」
「うん!」
私達は早足で家に向かった
リビングに勢揃いした私達は、お父さんがディスクを持って来るのを待っていた。
「あったよ……けどNO2って書いてるから途中からのようだね」
お父さんはパッケージからディスクを取り出し、デッキにセットした。
画面は観客の子供用のパン食い競争の模様が映っていたが、カメラの近くで交された会話が聞こえた。
「おい、そんな子供の競争より面白いものを写せ」
「は?何が面白いんですか?所長」
「シンジだ」
「シンジ君ですか……わかりました」
くるっとカメラが横向きに回転していき、観客席のシートの上で回転が止まった。
「レイちゃん悪いわねぇ」
「いえ……熱そうだったから」画面には青い髪の少女がカメラに背を向けて、
シートの上で寝ている少年の汗を拭いていた。
「この、寝てるのがパパなの?」ミライが指差した。
「うん……そうだよ ちょっと横で体育座りしてるのがママだよ」
「レイちゃん……冷やしたタオルあるんだけど、使う?」
「あ、はい」青い髪の少女が振り返った。
クーラーボックスから取り出した冷やしたタオルを、レイと呼ばれた少女は受け取った。
少しズームされて、画面一杯の綾波レイの顔が映し出された。
「これが……母さん……」シンイチ君が画面を見詰めたまま硬直していた。
私はシンイチ君にかける言葉が見つからなかった。
気が付くと、画面ではお父さんがタスキを身に付けて走っているのを捉えていた。
「シンジぃぃ 頑張れぇ〜」お母さんが両手に赤い旗を手にして振りまわしていた。
お父さんの前に一人先行してた人がいたけど、最後の方でお父さんが抜いて首位に立った。
チャー チャチャチャー チャー チャー チャー チャー
BGMの音楽”
クシコスポスト
”が大音量で流されており
応援席や、観客席の生徒や、観客が総立ちで応援していた。
お父さんは首位を維持したまま、ゴールを一着で駆け抜けた。
ゴールで待ち受けていた、お母さんや綾波レイさんにお父さんはもみくちゃにされていた。
「ここで止めよう」お父さんはリモコンで再生を停止させた。
「どうして?ここからが面白いんじゃないの……」お母さんがリモコンに手を伸ばそうとした。
「その……恥ずかしいんだよ……」お父さんはリモコンを手に下を向いた。
「まぁいいわ……次の機会にでも見せて貰いましょ」
「さて、お風呂に入って今日はもう寝ましょ」お母さんが背伸びをして立ち上がった。
私はお父さん達の貴重な青春時代の記録を見ることが出来て面白かった。
PM8:00
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よくやったな・・シンジ
問題無い・・・
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第10.5話Hパート 終わり
第10.5話Iパート
に続く!
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