ビュゥウーーー

雪の混じった強風の中、二人の若者が手を伸ばしていた。

アスカ!もっと手を伸ばせ!」

「シンジィ助けて!」

「さぁ!」

シュゥウゥゥ
二人を繋ぐワイヤーが切れかける音がしていた。

「もっと!」
「シンジ!」
ようやく触れ合う手と手

だが・・・・

シュウゥゥウゥ


プチッ



「アスカ!」

「シンジィィィイイィイイ」


アスカはシンジの目の前で、遥か下へと吸い込まれて行った


がばっ


「また夢か・・」僕は汗に濡れたシャツを脱いだ。

そして、この夢を見た後はつい、最後に彼女と一緒に撮った写真を見てしまう・・・

「アスカ・・・僕を呼んでるのかい?」僕は写真立てを元に戻した。


西暦2000年
セカンドインパクトと言われる地球的な災害の後、
地軸は歪み、四季は消え、今や年中雪に閉ざされた浅間山・・
人々は、あまりの環境の変化に、その総人口の三割を失う事になった。


そして、時に西暦2025年

二人は幼なじみで、小・中・高・大と同じ学校を出て、
一年中、雪に包まれた、浅間山頂の研究所で研究をしていた。
二人はいつまでも、幼馴染みとしての間柄ではいられなかった。
二人はお互いを求めており、何か新しい発見をした時、
結婚しようと誓い合った、間柄であった。

事件は、シンジとアスカが、ようやく発見した新しい法則を、
二人が学会に報告する為に、下山している時に起こった。

2本の太いワイヤーで固定され、もう一本のワイヤーで巻き上げて移動する、
モノレールに二人は乗っていた。
研究所のある峰と中継地点にある、小屋・・

その行程の中間地点を通過している時に、切れる筈の無い、
二つあるワイヤーの一つが切れ、
二人の乗っていたモノレールはバランスを失い、横転した。

そのモノレールは4人程が座れる程の大きさなのだが、
左右に窓は無く横転した時に、シンジは偶然足をかけれたのだが、
アスカは片手を枠にかける事しか出来なかった。

苦闘の末、シンジはアスカのもう一方の手を掴む事が出来たが、
その直後支えていたもう一本のワイヤーが切れ、そのショックで
モノレールは錐揉み状態になり、シンジはアスカの手を離してしまったのである。

移動の為の巻き上げ用に残ったたった一本の細いワイヤーが残っていたので、
シンジは九死に一生を得たが、救出されるまでに、一週間が経過していた

一週間後・・

ヘリコプターに乗った特殊部隊が、風の無い日にようやく、
シンジを救出した時に、シンジの髪は白髪と化していた。
雪山で何も口にせず、揺られ続けたせいか・・恋人を目の前で亡くしたせいか・・

彼はそれ以来山に登りはしなかった。


その後の度重なる捜索にもかかわらず、アスカの遺体は上がらなかった

平地での勤務に変わって3年・・時が少しづつシンジの心を癒そうとしていた時、
シンジは恋人の眠る浅間山に再び登る事になったのだ。


パラパラパラパラ

僕は浅間山に向かうヘリの中で、流れる風景をずっと見ていた。
こんな事がなければ、二度と見るまいと思った雪に閉ざされた浅間山・・

3日前・・

「碇君・・実は、浅間研究所で通信班のひとりが、
腹痛の為に急遽下山する事になったんだ・・
すまないが、行ってくれるかね・・」上司であり、アスカを亡くした僕を
いつも励ましてくれていた冬月部長が僕に言った。

「わかりました・・」僕は右手を握り締めて答えた。



「碇さん・・あと10分で着きます」横でヘリを操縦しているパイロットが言った。

僕は首を振って答えた。

パラパラパラパラ
そして、山の中腹にある中継地点のヘリポートの黄色いマークを僕は見つめ続けていた。


雪山に消ゆる面影を求めて

作:尾崎貞夫

第1話【静止した雪の中で】Aパート


「碇さん・・碇さん・・着きましたよ」
僕はヘリのパイロットに肩を叩かれた。

「ん・・ああ」僕は荷物を掴んでヘリを降りた。

そして入れ違いに、担架で運ばれて来た研究員が乗せられていた。

「さて・・顔を出すか・・」


僕は荷物を持って、中継地点のキャップに挨拶に行く事にした。

ギィイー
僕は重い扉を開けて、中に入った。

「をい 雪が舞い込んでるじゃねぇか・・早く閉めてくれよ」
頭には毛糸の帽子をかぶり、マグカップでコーヒーを啜っている男が声をかけた。

「ああ すまない・・」僕は扉を閉めて、先ほどの声の主と対面した。

「ん・・なんだお前さん・・さっきの奴の後任かい?」
先ほどの男は新聞から顔をあげた。

「ああ そうだ・・・宜しくお願いするよ・・」僕はそう言って帽子を取った。

!? おめぇシンジじゃ無いか! シンジ!3年ぶりだな・・」新聞を放り出して、
先ほどの男”加持リョウジ”が立ち上がって僕の肩を叩いた。
「そぅかぁ・・もう3年か・・」
「加持さん・・」



をい!なんだその手つきは!もっと深く差し込まないと、抜けるぜ!

は、はい

いくらモノレールがあったって、いざって時にゃ自分の力で上まで
登れないと、意味が無いぜ!




加持キャップは昔、山登りを一から教えて貰った恩師だった。
僕はその時の事を思い出していた。
加持さんは口は悪いが、事、山登りに関してはエキスパートだった。

山で立ち往生した研究員を助けた事も一度や、二度では無かった。


「おっと・・もうリフトの時間だ・・積もる話はまた後でな」
数分後 加持は僕を送り出した。


僕は上に向かうリフトの発着駅で白い息を吐いた。

アスカ・・あれからもう3年か・・一度も墓参りにすら来れなかった僕は・・
僕は・・卑怯者で弱虫で・・君の恋人としての資格なんか・・」
僕の流した涙は、頬の上ですぐに凍っていった。


リフトに乗ってからの30分はあっと言う間に終わりを告げた。

「もう着いたのか・・・このリフトが3年前にあれば・・」

どんっ

僕は思わずリフトを思いっきり拳で叩いた。

「おい・・兄ちゃん・・リフトは皆の命綱だぜ・・そんな粗末に扱う奴なんか
来んでもえい! 帰れ!」同い年くらいの、若い研究員がリフトの降り口で叫んだ。

「何だと!」僕は思わず 睨み返してしまった。

「何や・・やるっちゅーんか!?」

「何も知りもしない・・知ろうともしないお前にそんな事言われる謂れは無い・・」

「よっしゃ・・来いや・・リフトに傷つけた無いからのぉ」

「鈴原君!何やってんの!」

その時、建物の中から、一人の若い女性が走り出して来た。

「洞木さんか・・・」僕は小さい声で言った。

「碇君・・・ホントはあなたなんかに来て欲しく無かったのよ・・」
洞木さんが僕を睨んだ。

「何故・・・」僕は震える声で答えた。


「あなた、皆に何と呼ばれてるか知らないの?」

「想像はつくさ・・疫病神? それとも薄情者? それとも・・仲間殺し?
その最期の一言を言った時、洞木さんの手が閃いた。

パシーーン

「辛かったのはあなただけじゃ無いのよ・・・それを・・一人だけ逃げ出して・・・
あまつさえ・・あんな事して・・あんな事をいくらしたって、
アスカは浮かばれないわよ!

僕は声も無く立ちすくんでいた。

「こいつ誰や・・しっとるんか?」先ほどの青年が尋ねていた。

白髪の復讐鬼って言ったらあなたにも分かるかしら・・」洞木女史が言った。


第1話Aパート 終わり

Bパート に続く!


[Bパート]へ

[もどる]