「こいつ誰や・・しっとるんか?」先ほどの青年が尋ねていた。

白髪の復讐鬼って言ったらあなたにも分かるかしら・・」洞木女史が言った。


雪山に消ゆる面影を求めて

第1話【静止した雪の中で】Bパート


「は、白髪の復讐鬼っつーたら、あの事件の?!」

「そうよ・・恋人を間接的に殺した犯人を調べ上げ、証拠を掴み、そしてその犯人を撃ち殺そうとした男よ・・」

「それは事実だが、本人を目の前にして言う言葉じゃ無いんじゃないかな・・」僕は眉をひそめた。

「昔の碇君はそんな事する人じゃ無かった・・・アスカが死んだから・・それは分かるけど・・・」洞木女史が俯いた。

「け、けど・・わしやて、同じ目におうたら・・同じ事するで・・なあ・・洞木さん」


先ほどの青年が声をかけた。

「それは分かるわよ・・けど、みんな悲しかったのよ・・アスカが死んで・・
けど本当にみんなが悲しかったのは・・碇君・・あなたが変わったからよ・・
アスカが前に私に言った事があるのよ・・”あいつは一見頼りないけど、こと
私が絡むと、一生懸命になって私を支えてくれる・・優しい人よ・・”って」

・・・・」僕は何も言うべき言葉が見つからなかった。

数分の沈黙の後

「そりゃ・・僕だって好きであんな事したんじゃ無いさ・・アスカと一緒に仲良く研究出来ていたなら・・
僕があの男を撃ち殺す事が出来ていたなら・・すぐアスカの後を追うつもりだったんだ・・・
奴を撃ち殺した拳銃で・・けど、冬月部長が・・・くっ・・」僕は右手が痛くなる程握り締めていた。

あなたバカよ・・アスカがそんな事喜ぶ訳無いじゃない・・・

アスカのいない、この世界は寒すぎるんだよ・・一緒にお互いの心を暖めあったアスカが死んだあの時・・・
僕の心は死んだんだよ・・・もういいだろう・・明後日には山を降りるんだ・・
もう二度とここには来ないさ・・」僕は一気に言い放った。

「碇君・・・ごめん・・言い過ぎちゃったみたいね・・けど・これだけは覚えていてね・・
アスカだって碇君が幸せになれば、きっとうれしい筈よ・・雲の上から碇君の幸せを見守る筈よ!
だから・・だから・・」

「さ、洞木さん・・いつまでもこんなとこにおったら風邪引くで・・ま、中に入ろうや・・」
鈴原と呼ばれた青年が洞木女史を建物の中に連れていった。

僕は山頂からの風景を見続けていた。

「碇って言ったっけ・・・さっきはすまんかったな・・そんな事情があったやなんて・・
わし・・無神経な事いうてしもうて・・・・これだけは言っておきたかったんや・・」
鈴原と呼ばれていた青年が後ろから声をかけた。

「さ、風邪引くで・・そろそろ入いらんと・・」

「すぐ・・すぐ入る・」僕は振り向かずに答えた。

「わかった・・」

バタン  背後で扉の閉まる音が聞こえた。


数分後


「この度着任した碇シンジです」僕はこの山頂の研究所長に挨拶していた。

「ひさしぶりね・・碇君・・」キーボードを打つ手を休めて、赤木研究所長が振り向いた。

「短い間だと思いますが、お世話になります・・」

「あ、そうそう、今葛城警備課長が屋上でアンテナの雪を取ってるの・・手伝ってあげてね。」

「わかりました・・」

僕は勝手知ったる研究所内を歩き、迷う事無く、屋上への階段を登って行った。

ギギィイイ

僕は防寒具のフードを上げて、扉を開けた。

屋上の隅で、葛城警備課長が、衛星通信のパラボラアンテナに
こびりついた雪を取り除いていた。

「葛城課長・・本日着任した碇シンジです・・」僕は葛城警備課長に声をかけた。

「・・ああ、話は聞いてるわ・・よく来たわね・・よいしょっと」
葛城警備課長は手袋の雪を払い落としながら振り向いた。

「お世話になります・・葛城主任・・いえ、葛城防犯課長」僕はおもわず昔の役職名を言ってしまった。

「3年ぶりね・・噂は聞いていたけど・・・・昔の可愛いシンちゃんはどこ行ったのかしら・・
そんなにすさんじゃって・・」と言って葛城警備課長が雪の付いた手袋で僕の頬を触った。

「3年とは言っても・・まるで昨日の事のようです・・・僕の魂の時計は、3年前のまま動いていません・・
あれからの3年は・・抜け殻です・・」

この研究所に来たばかりの頃は警備主任だった葛城さんによくからかわれてたものだった。


シンちゃぁん あなたホントに可愛いわね・・図星突かれたら真っ赤になって否定するし・・
アスカちゃんといいシンちゃんといい似た者夫婦ね

からかわないで下さいよぅ それにまだアスカとは・・  ハッ

いい事聞いちゃった・・じゃおねーさんが教えてあげようかな・・

くぉらぁ!ミサトぉ私のシンジに何してんのよ!このショタ女!

じょ、冗談じゃ無いの・・それに、”私のシンジ”ってどういう事?

そ、それは(引き)



だが、落ち込んだ時やアスカとケンカした時には僕たちを慰めてくれたり、仲直りさせてくれた恩人だった。

「ま、歓迎するわ・・・願わくば、その時計の針を進めてあげたいけど・・・
それが出来るのはアスカだけか・・・」葛城警備課長が下を向いた。

「アンテナはもういいわ・・下に降りましょ」

「はい・・」


僕は葛城さんに、青葉通信班長を紹介してもらった。

「よろしくな・・ま、気張らずにやろうぜ・・」
ギターを手に、上機嫌な青葉班長であった。


その日の仕事も終わり、僕はあてがわれた部屋に向かった。

荷物を足元に置き、中から厚手の寝間着を取り出して、着替えていた。

その時

コンコン

ドアをノックする者がいた。

僕は寝間着を着てから返事した。

「はい・・」

「葛城だけど・・ちょっといい?」

「どうぞ・・」僕は声を返した。

葛城警備課長が手にブランデーの瓶とグラスを持って入って来た。


「あの頃はすぐ吹き出してたけど・・もう飲めるでしょ」と言ってブランデーの瓶を見せた。

「いただきます・・」

「それじゃ再会を祝して・・かんぱーい」
カチン

グラスを合わせて、グラスを口元に持っていき、一気に飲み干した。

「まぁ・・ホントにイける口ねぇ・・」と言ってブランデーをもう一度注いでくれた。

今度は一気に飲まずにちびちびと飲っていた。

「その様子じゃかなり飲んだのね・・アスカが死んでから・・」

僕は思わず睨んでしまった。

「ご、ごめんなさい・・私には三年前でも・・あなたに取っては・・」

「けどね・・まアル中の私が言ってもなんだけど・・お酒に逃げちゃ駄目よ・・
気持ちは分かるけどね・・」と言って葛城さんも一気に飲み干した。

「プハーー いい酒ねぇ・・碇所長の引き出しに入ってただけの事はあるわ・・」

「父さんの?・・」

「あ、私のアル中治す為、みんながお酒隠してたのよ・・
で、探してたら碇所長の机の引き出しにこれがあったの・・
一昨日までその引き出しには無かったのにね・・
昨日下山されたけどね・・下に持って行くつもりで忘れたのかもね」

1時間後・・

僕たちは無言のまま、酒を飲み続けていた。
まるで、アスカの通夜のようでもあった。

「よっよっ・・もう空か・・」葛城さんが、ボトルをさかさまにして振っていた。

「もう・・酒はいいです・・ミサトさんみたいになりたく無いですから」僕は何気なくそう言った。

「あ、シンちゃんったら非道い! そんな事言う子にはもう飲ませませんからね」
葛城さんが笑いながら、僕のグラスを取り上げようとして、ベッドに座って飲んでいる僕に近づいて来た。

「おっと・・」僕はグラスの中のブランデーを撒かないようにした。

「最後のこの一杯はアスカに・・」僕は家から持って来ていたアスカの写真立ての前にグラスを置いた。

「シンジ君・・・辛かったでしょう・・悲しかったでしょう・・・シンジ君がそんなにすさんだのは、
前のままじゃ、心が壊れそうになったからでしょ・・もういいのよ・・シンジ君・・」ミサトさんが涙を流して僕に抱き着いて来た。
「シンジ君・・・私に出来る事はこれだけ・・・でも今のあなたを慰める事ぐらい・・ほんのひとときだけでも・・」
葛城さんの顔が近づいて来ていた。


第1話Bパート 終わり

Cパート に続く!


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