シンジは食堂で朝食を取っていた。
「碇君・・今日は10時から朝礼があるそうよ」葛城警備課長がシンジを見つけて声をかけた。
「こないだ、下山した彼・・盲腸と腹膜炎を併発しちゃってね・・碇所長が後任を連れて来るそうなのよ」
「そうですか・・」
シンジはカウンターにトレイを置いて声をかけた。
「あ、また、人参入ったら教えて下さい」
10分後
一階の大広間に職員が全員並んでいた。
シンジは最後尾で冷ややかな目を父に向けていた。
「前任の大場君が疾病の為、任を外れる事になった。
そこで、彼女を後任にする事となった。」碇所長はそれだけ言って後ろに下がった。
「通信士の綾波レイです!宜しくお願いします」
20代前半の蒼い髪の女性が挨拶をした。
数分後 職員はばらばらと自分の持ち場へと帰って行った。
シンジも持ち場に帰ろうとしたが、誰かに呼び止められて振り向いた。
「碇君・・彼女を案内してやってくれ」碇所長が先程の女性を連れてシンジの前に現れた。
「わかりました・・」
別れ際に「シンジ・・後で第二所長室に来い・・」と言って碇所長は去って行った。
再び歩きはじめた。
綾波通信士が声をかけた。
「・・・・」
「ごめんなさい・・」
「何を聞いて来たのかは知らないが・・放っておいてくれないか・・」
「ごめんなさい・・」
「ここが三階だ・・大掛かりな実験設備とホストマシンはここだ。」
「ここが二階だ・・研究用のフロアーと通信室などがある・・」
「ここが一階だ・・職員用の食堂・・自室・・娯楽室・・風呂場などがある・」
「ここが地下一階・・警備の詰め所やボイラー施設がある・・」
「ここが地下二階・・・立ち入り禁止のフロアーも含めて資材置き場になっている」
シンジは一回り所内を見せて回った。
「それじゃ青葉通信班長の所まで・・帰れるか?」
「ええ・なんとか」
「それじゃ・・」
シンジはエレベーターに乗り、カードキーを通して、スイッチ類の下のカバーを外して、ボタンを押した。
ガァァァー エレベーターは下へ下へと降りて行った。
エレベータの電光表示は地下10Fをさしていた。
シンジがエレベーターから降りると、そこには巨大な空間があった。
巨大な立体投影スクリーン そして3台の巨大コンピュータ 大量に並んでいるコンソール・・ そして上の方に第二所長室があった。
シンジは移動式のタラップに乗りボタンを押した。
ガーーー ガシャン
シンジはタラップから出て所長室の扉を叩いた。
「入れ・・」
シンジは室内に入った。
「三年ぶりだな・・シンジ」
「父さん・・例の研究はどうなったんだ・・」
「ああ・・サンプルは無くなったものの、計画は順調に推移している・・
人類保管機構計画はちゃくちゃくと進んでいる・・」
「多大な損失を払ってまで、進めないといけなかったのか?」
「ああ・・あの時・・あれを公開される訳にはいかなかった・・
例え息子のおまえであってもな・・・」碇所長は手を組んだまま微動だにしなかった。
「何もしなかったら・・4年後に世界が氷河期に再び移行しようとも・・
僕は・・アスカと過ごす4年間を選んだんだ・・」
「言いたい事はそれだけかい?父さん・・」僕は懐に隠し持っていたデリンジャーを引き抜いた。
「あの男が連行される手前に吐いたんだよ・・命令したのは碇所長・・あんだだって事をな!」
碇ゲンドウが肘を置いている机に穴が開いた。
「これは脅しなんかじゃ無い・・分かっているんだろう?父さん・・」
「ああ・・お前が私を殺したなら・・計画は霧散するだろう・・
全人類を凍死させる覚悟があるのなら、俺を撃て・・」
「父さん・・父さんはいつもそうだ・・・」シンジは右手を震わせながらも銃口は碇ゲンドウに向いていた。
「その気になったらいつでも撃ち殺せ・・私にはそれだけの罪があるのだからな・・
だがシンジ信じてくれ・・私はおまえだけでも生き残ってくれて嬉しかったよ・・」
「・・・・偽善者め・・・」
「ああ・・そうかも知れんな・・だが、全人類を、ユイのような目に合わせたく無いのだ・・」
「母さん?」
「ああそうだ・・お前を産んでまもなくの事だった。私たちはこの山頂に研究所を作る為、調査に来ていたのだ。
だが、雪嵐にあってしまい、体調を崩していた私は風邪を引いてしまい、ユイと二人でようやく山小屋を見つけたのだ・
だが、その山小屋には扉が無かった・・私は高熱の為、意識を無くしてしまい、目を覚ますと、
狭い山小屋の入り口に、ユイが身体を凍り付かせながらも、雪嵐から私を守ってくれたのだ。
出産したばかりのユイにとって、それは命懸けの行為であった。意識があれば、絶対止めただろうが・・・
ユイは朝焼けの光の中で優しい表情のまま、凍死していたよ・・だが両手は山小屋の入り口の左右を掴んで離さなかった」
「・・・・何故それを言わなかったんだ・・父さん・・そんな話聞いたら・・
父さんを憎めなくなるじゃないか・・・」シンジは手にしていたデリンジャーを取り落とした。
「だが、それとアスカ君を殺してしまった罪は別だ・・人類保管機構が成立し、人類が滅びの時を逃れ得たら、
その時は・・その時はシンジ・・おまえに頼む・・」
「わかったよ父さん・・下に遣り残した事があるからそれを済ませたら、
また上がって来るよ・・死んだ母さんとアスカの為にも、全人類を守る為にも・・」
シンジは立ち上がって碇ゲンドウに背を向けた。
「シンジ・・」
「?」
「忘れ物だ・・その時まで持っていてくれ・・」シンジの手にデリンジャーを手渡した。
「わかったよ父さん・・」
シンジは第二所長室を出て、エレベータ室に向かった。
その日の昼・・
シンジは食堂で昼食を取っていた。
「ここいいかしら・・」
シンジが顔を上げると綾波通信士がトレイを持って立っていた。
席は他にも多数開いていたのでシンジは少し怪訝そうにした。
シンジは黙々と食事を続けた。
そしてシンジが食べ終えた時、綾波通信士が口を開いた。
「碇さん・・今、恋人はいらっしゃるんですか?」
ざわざわっ
食堂で昼食を取っていた他の職員もざわめいた。
「聞いてるんだろ・・」
「いえ・・その後・・」
「・・それが出来るのならこんな辛い思いするかよ」
シンジはそれだけ言うとトレイを持って席を立った。
「あらら・・綾波さんだったっけ・・大胆ねぇ・・
彼は一途なのよねぇ・・死んだ彼女に操を立てるなんて・・
まだしてなかったくせに・・ホントにバカよ・・」
葛城警備課長が今までシンジの座っていた席に座って、綾波通信士に声をかけた。
「そうなんですか?いい事聞いちゃったな(ハアト)」
「あんためげないわねぇ・・」
「碇さんの事よくご存知なんですか?」
「そりゃ・・シンジ君が毛の生える前から知ってるわよ・」
「なんでそこまで知ってるんです?」
「うっ(引き)冗談よ冗談」
「じゃ、碇さん今フリーなんですよね」
「そりゃそうだけど・・ガード固いわよ・・」
「なんでそこまで知ってるんです?」
「うっ(引き)」
「あの子が生きてたら今ごろ大変ね・・」
「聞きたい事あるんですけど・・」
「なに?」
「ごにょごにょ」
「そ、それはまずいっしょ・・」
「けど・・碇さん・・そういう免疫無いんでしょ・・」
「そりゃそうだろうけど・・」
「私一目で気に入っちゃったんです・・冷たい態度とってるけど、
時折見せる、瞳の奥の優しくて、悲しい光・・」
「あんたも今日来たばかりなのに良く知ってるわね」
「実は私も下の研究所にいたんです・・そこで研修受けてたので・・碇さんの事は知ってました。」
「あらそうなの・・ふーん・・けどあなた見る目はあるわね」
「私と似てるんですよね・・あの人」
「あなたと?あなたとは似ても似つかないじゃない・・昔のシンジ君ならいざしらず・・」
「え、いや、何でも無いんです」
「じゃ葛城さん・・ありがとうございました」
「健闘を祈ってるわよ・・」
「ハイ」
トレイを持って席を立つ綾波通信士
「若いっていいわね・・」葛城ミサト42才は呟いた。