仕事を終えたシンジは食堂で夕食を取っていた。
「窓から見える雪景色は見る者の心を暖めはしなかった。
「準備OKよ」
「ありがとうございます」
「約束・・忘れないでね」
「分かってます」
「都合良く夕食は汁物だし・・」
ふーふー
「あんた何やってんの?」
「碇さんが火傷しないように・・」
「それじゃ待ってるわね・・」
「ハイ」
雪山に消ゆる面影を求めて
第2話【新たなる挑戦者】Bパート
「碇さん・・そこいいですか?」綾波通信士はシンジの背後から声をかけた。
シンジは黙ってうなずいた。
シンジの横を通る時・・・
(碇さん・・ゴメン・・)
「わっ」綾波通信士は手にしていた夕食の入ったトレイを斜めにした。
「・・・!」
シンジの背中は彼女が持っていたシチューでびっしょり濡れていた。
「ごめんなさぁい 碇さん・・火傷しませんでした?」綾波通信士はハンカチでシンジの背中を拭いた。
「拭いても駄目ね・・・碇さん・・すみませんがシャワーでも浴びててもらえませんか?
今替えの制服とか持って来ますので!」
ギャラリーがいたら、彼女のわざとらしい行為を見抜く者もいたであろうが・・
何故か、大勢の職員は赤木博士の元で緊急ミーティングを行う事になっていた。
シンジは食事を終え、トレイを持って立ち上がり、カウンターに置き、
自室に向かった。
「あれま・・御風呂に来ないわね・・部屋の簡易シャワーですますのかしら・・
これは計画変更もやむなしね・・」風呂場と食堂の通路の陰に潜む40女一人・
「あ、葛城さん・・首尾はどうです?」用意していたシンジの制服の替えを手にした綾波通信士が声をかけた。
「駄目よ・・自分の部屋に行っちゃったみたい・・」
「ロックかかってるかしら・・」
「あんたも大胆ね・・」
「葛城警備課長・・お願いしますよ・・」
「そ、それは・・そりゃ私のカードなら開くけどさ・・」
「お願いします・・何なら約束のアレ・・枚数増やしますので・・」
「わかったわよ・・」
「10枚までOKですよね・・」綾波通信士は胸に付けているネームプレートを触った。
ジャーーーーー
シンジは自室に備え付けの簡易シャワーを浴びていた。
簡易シャワーなので、囲いは水色の薄い特殊繊維だけだ。
各部屋に装備されているが、あまり使う者はいない。
ガシャー
部屋の扉が開く音がした。
「ごくっ」綾波通信士はミサトのカードでロックのかかっていたシンジの部屋の扉を開けた。
そして後ろ手でドアのボタンを押した。
ピッ
電子音がして、部屋の扉はロックされた
足音を忍ばせながら、簡易シャワーのある場所まで歩いて行った。
手にはシンジの為の替えの制服を持っていた。
目の前にはシャワーを浴びているシンジのシルエットが見えた。
シンジのベッドには脱いだ制服や下着が置いてあった。
「まずは一枚・・」綾波通信士は手を握り締めた。
「何かしら・・」綾波通信士はシンジのベッドの頭元の写真立てを手に取った。
その時! 野ウサギが目を覚まして、シンジのいる簡易シャワーの中へ入って行こうとした。
「こら・・・アスカ・・だめだって」
シンジは野ウサギのアスカの首を掴んでシャワー室を出てダンボール箱にアスカを入れた。
腰にタオルを一枚巻いただけの姿であった。
ぎゅっ
ぎゅっ
綾波通信士は二度手を握り締めた。
「あ、あ、あの・・」
「!?」声に驚いたシンジが思わず振り向いた。
「え、いや、あの・・着替えの制服持って来たんです・・・
その、そんなつもりじゃ」綾波は顔を真っ赤にしてどもった。
彼女の右手は緊張の為か何度も握ったりゆるめたりしていた。
「その・・ごめんなさい・・」
最初は無関心だったシンジも、綾波の手の中の写真立てを見つけ、
思わずにじりより、綾波の手から奪い返そうとした。
ベッドの横に立っていた綾波は思わずバランスを崩してしまい、
ベッドに倒れてしまった。
「きゃあっ」
シンジも綾波の手から写真立てを奪おうとしていたので、
一緒にバランスを崩して綾波通信士と一緒にベッドに倒れ込んでしまった。
収納式のベッドなので高さがあまり無かったのが・・シンジの不幸?であったのかもしれない・・
二人はお互いの瞳に見入っていた。
二人はまるで時間を忘れたかのように放心していた。
「・・・・帰れ・・」ようやく我に帰ったシンジが綾波の身体の上からもぞもぞと離れた。
「ご、ごめんなさい・・私・・私」
綾波に背を向けて黙々と下着を着るシンジの背中に綾波は涙を流しながら呟いた。
だが、何故か、泣きながらも手を握りしめる事を忘れはしなかった。
「碇さん・・私あなたが好きなんです・・」綾波通信士はシンジを背中から強く抱きしめた。
「・・・・」
「あなたの悲しみ・・辛さを私に分けてくれませんか?」
「・・・・・」
「私はあなたとなら・・どんな悲しみだって乗り越える事が出来ると思います・・」
「だから・・だから・・」綾波通信士は抱きしめる力を少し弱くした・・
「どんな悲しみにも耐えられるって言ったな・・」
シンジが振り向いて綾波通信士の目を見据えた
「はい・・」
「君はどんな悲しみを知っていると言うんだ・・心を許した恋人は目の前で死に、
しかも殺した犯人は・・・残された者の悲しみが分かると言うのか?」
「わかります・・・私も同じですから・・」
「君も?」
「中学生の頃・・兄のように慕っていた従兄弟と一緒に食料を探しに、山に出かけたんです・・
ところが、急に空が曇って、雨が振り出して来て、私たちは木のうろの中に隠れたんです・・
私は、告白するチャンスだと思い、口にしようとしたら、彼にいきなり突き飛ばされたんです・・
次の瞬間には私たちのいた木に雷が落ちて・・彼は私を突き飛ばした体勢のまま、死んでいたんです」
「あれから・・7年・・私は抜け殻のようでした・・・・」
「・・・・・」シンジは思わず目に涙を溜めていた。己の境遇と合い通じるものがあったからだろう。
「私の為に・・泣いてくれてるんですか・・」
「碇さん・・私にあなたの強さを下さい・・」
「決して・・僕は強い人間じゃない・・・・」
「それでいいじゃありませんか・・一人じゃ無理でも・・二人なら・・きっと・・」
プチ・・プチ・・
綾波通信士が静かに制服を脱ぎ始めた。
「・・・・」
そして下着を脱ぎ掛けた時、シンジは思わずそのはかない、まるで散り急ぐ花のような、背中を抱きしめていた。
「碇さん・・」
「君の気持ちは嬉しい・・だが・・まだ気持ちの整理が出来て無いんだ・・
今、君を抱いたらアスカの事を忘れてしまうかも知れない自分が恐いんだ・・」
「碇さん・・」
「・・・・」
「キャァぁぁぁぁ」
シンジの部屋から悲鳴が聞こえた。
「ど、どうしたのかしら・・成功したのかしら・・
もしかして・・あ、いけない鼻血が・・」
「葛城君・・葛城君」
ミサトは背後から声をかけられているのに気づかなかった。
「あっ ハイ」
振り向くと、そこには、碇所長が立っていた。
「何をやっているのかね・・下のモニターに君のIDでのハッキングを発見したんだがね」
「あっと、その、いえ・・すみません」
「で、首尾はどうだ?」
「は?」
「首尾はどうなのかと聞いている・・」
「あ、一応成功のようです」
「こんな所で無くとも、下に行けばモニター出来るだろう・・」
「あっ・・忘れてました・」
「問題無い・・すでに録画は開始している・・」
「あの・・」
「何だ・・」
「ダビングさせて下さい・・」
「・・・・考えておこう」
「碇所長も・人の親なんですね・・」
「まぁな・・ところで、君の昨日のアプローチ・・あれはいかんぞ・・」
「げっ・・見てたんですか?」
「ああ・・」
「結構親バカですね」
「何か言ったか・・」
「いえ何でもありません!」葛城警備課長は敬礼をした。
「・・・・」碇所長はシンジの部屋の前を後にした。
「はぁ・・はぁ・・」
「痛い・・痛っ・・碇さん・・痛いの」
「我慢しろ・・」
「もっと優しくして・・」
「こういう傷は良く消毒しないと・・」
「だけど染みるんです・・」
「後はカットバンで・・」
「碇さん・・やっぱり優しいんですね・・」
「・・・」
「しかし・・いきなりアスカが噛み付くとは・・」
シンジは綾波の足首にカットバンを張りながら呟いた。
(ひどい・・あともう少しで落ちたのにぃ・・)
綾波通信士の闘いは・・・続く
第2話Bパート 終わり
Cパート に続く!
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