そして、翌朝
この日、シンジは公休となっていた。
シンジは防寒服を着て、自室を出ようとした。
すると足元に、野ウサギのクレインがシンジを見上げていた。
「おまえも来るか?」
シンジは防寒服の大きいポケットにクレインを入れ、頭だけ出すようにした。
シンジはドアを閉め、歩き始めた。
その頃・・某所にて・・
「8枚しか撮らなかったの?」
「ええ・・」
「まぁいいわ・・もうリツコに現像して貰ったんでしょ・・」
「すみません・・これは渡せないんです・・」
「何故?」
「約束はしたんですけど・・やっぱり碇さんに悪くて・」
「リツコは何って言った?」
「そう・・としか言いませんでした。」
「分かったわ・・けどあなたが一人占めってのもアレよねぇ」
「その写真どうするの?」
「燃やしましょう・・」
「灰皿お借りします・・」
綾波通信士は灰皿の上に封筒ごと写真を丸めて乗せて、火を付けた
二人は写真がパチパチと音を立てて燃えるのを眺めていた。
「そういえば今日碇さん見えませんね」
「今日はオフなのよ・・今朝アスカの墓の場所を尋ねに来てたの・・
怒られちゃった・・ロックを開けたのは私の仕業だって分かったみたい」
「他に何か言ってませんでした?」
「そうね・・彼はこう言ってたわ・・
”彼女と僕は同じ傷を持っています・・だけど僕たちが例え、一緒になっても、
お互いの傷を舐め合うだけです・・それでは僕も彼女もダメになってしまう”
って言ってたわ」
「碇さん・・・」
「それとこれを預かってるわ・・」
「これ何ですか?」
「こ、これ・・アスカさんと碇さんの写真じゃ無いですか・・どうしてこれを・・」
「それはね・・多分・・アスカの事は忘れて来るって意味じゃ無いのかしら・・
お互いが傷をもち、弱いままだと駄目だとは彼が言ってたでしょ・・
だから、あなたの為にアスカにお別れを言いに言ったんだと思うわ・・
あなたを守れる程強くなるためにね・・」
「じゃ、私の事・・」
「けど、これだけは覚えておくのよ・・彼はあなたの悲しみを埋めるために、
アスカの事を忘れようとしているのよ・・彼優しいから・・自分の辛さ悲しさは平気でも、
他人が泣き悲しんでいるのを放っておけないのよ・・それはただの同情よ・・真の愛なんかじゃないわ
けど、きっかけはどうだっていいじゃない・・これからシンジ君と愛を深めていけばいいんだから・・」
「はい・・」
綾波が手に持っているシンジとアスカが微笑んでいる写真立てのガラスに涙が数滴零れ落ちた。
綾波通信士は写真立てを持ったまま、走りはじめた。
「行ったか・・・それでいいのよ・・」
シンジは研究所の裏にある小高い岩場に立っていた。
そこにはアスカの墓標が立てられていた。
「アスカ・・」シンジは、墓標を見入っていた。
背後から綾波通信士の声がした。
泣きながら、シンジを後ろから抱きしめて言った。
「忘れなくてもいいんです・・アスカさんの事をそんなにまで、
愛した碇さんだから好きになったんです!だから・・だから・・」
「碇さん・・」
「綾波・・」
二つの影は一つになろうとしていた。
その時!
シンジのポケットの中に入っていたクレインが、目を覚ました。
そして、その燃えるような紅い瞳で綾波通信士を睨んだ。
そして荒い息をしていて、まるで、今にも綾波に飛び掛からんばかりだった。
「こ、恐い・・」
「?」
「こら・・アスカ・・」気づいたシンジはクレインの頭を撫でた。
「そうは簡単に渡さないわよって アスカさんが乗り移ってるのかも知れませんね」
綾波通信士はクスリと笑った。
「そうかも知れないね・・」
「帰りましょうか・・」
「・・・・」
僕はアスカの墓を後にした。
二人は横に並んで歩いていた。
「碇さん・・」
「?」
「葛城さんが言ってたんです・・碇さんが今、私を選ぶのは、ただの同情だって言ってたんです・・
最初はそれでもいいから・・って言ってくれたんですけど・・」
「・・・・」
「だけど・・同情で無く、私を本心から好きになってくれるまで、待つ事にします・・
私も強くならなきゃ・・碇さんに負担をかける事になりますし・・・そんなの嫌ですから」
「そうだな・・けど、君が悲しみから立ち上がったら、
僕みたいな女々しい男には目もくれなくなるかもしれないな」
「もう碇さんったら・・・」
そして翌日・・・
シンジは、葛城警備課長・赤木研究所長・洞木栄養士・鈴原(リフト管理者)・綾波通信士・そして野ウサギのクレインとリフトの前で話していた。
「シンジ君・・もう戻って来ないつもりなの?」赤木研究所長が寂しそうに言った。
「碇君・・・こないだはあなたの気も知らずにあんな事言ってごめんなさい・・また戻って来てね・・みんな待ってるから・・」洞木栄養士が言った
「また、上がってこいや・・せっかく知り合いになれたのに・・」 リフト係の鈴原が肩を叩いた。
「またね・・シンジ君・・今度君に会う時は、笑顔のシンジ君に会いたいわね・・」葛城警備課長が言った
「碇さん・・これ・・その日まで・・持ってて下さい」綾波通信士が、アスカとシンジの写真の入った写真立てを手渡した。
「みんな・・ありがとう・・またいつの日かここに上がって来るよ・・遣り残した事もあるしね・・」
「クレイン・・いやアスカ・・」足元にじゃれついて来たクレインを持ち上げた。
「一緒に来るか?」
だが、クレインはシンジの手を離れた。
「そうか・・」
「碇さん・・私が責任を持って預かります・・絶対また上がって来て下さいね!」綾波通信士が目に涙を溜めて言った。
「ああ・・みんな・・さよならは言わないよ・・・・・」
シンジは振り向いてリフトに乗り込んだ。
ガシャーー
リフトの扉が閉まり、見送る人たちが涙を堪えて手を振っていた。
ガーーーー
リフトはゆっくりと山を降りていった。
20分後・・
ガクンッ
リフトが急激に停止した。
「事故かな?」シンジはリフト内の通信機器を使い、頂上の研究所に連絡を入れようとした。
「繋がらない・・何があったんだ・・」
その時!
左手の方から山頂に向かって、白塗りの二機のヘリコプターが上昇して行くのが見えた。
だが、複雑な気流のせいで、その動きは遅々としていた。
「まさか!」シンジは懐の中のデリンジャーに手をやった。
「電力をカットされたのか・・・しかし・・緊急用の発電装置は何故動かないんだ・・」
「電力が無ければ、レーダーも作動しない・・みんなが危ない・・」
「!」シンジは座っていたシートの下の緊急用の引き出しを開けた。
中には信号弾とザイル・フック付きロープ・そして僅かな食料・・そして登山用の道具があった。
シンジは自分のバックを開き、中から不要と思われる物を取り出し、
それらの必要な物をバックに詰め、バッグをリュックサックのようにする金具を付け、背中に背負った。
「これか・・・」シンジは非常用のレバーを引き、扉のロックを外した。
シンジは手でドアをこじ開けた。
山肌まで3m・・シンジは少し下にある、雪からはみ出た岩のでっぱりを見た。
助走さえ出来れば、それほど無茶では無いのだが、狭いリフトの中で助走などつけられる筈も無かった
シンジは手袋の留め金を確認した。
「・・」シンジは数秒何か考えていたが、リフトから身を乗り出した。
「やぁっ!」シンジは叫びながらリフトを飛び降りた。
目標の岩の出っ張りまで、後1メートル
シンジは思いっきり手を伸ばした。
だが、手の指先がようやく岩に引っかかっている状態に過ぎなかった。
足をかけようにも、オーバーハングぎみなので無理だった。
シンジはもう片手を伸ばしその岩のでっぱりを掴む事が出来た。
指先しかかかって無かった右手を外し、片手で身体を支え、
右手で服のポケットから フック付きロープを取り出した
そして回転させて5メートル程上の、岩場にめがけて放り投げた。
カシッ・
フックはなにかに引っ掛かり、ロープを引っ張っても大丈夫のようだった。
シンジは身体を支えていた左手もロープに移した。
シンジは一本のロープにしがみついていた。
雪混じりの風に吹かれ、布で覆われていない所の感覚は薄れて行った。
そして、意を決してロープを登り始めた。
だが、それは容易な事では無かった。
「まるで、地獄に降ろされたクモの糸だな・・
天国のアスカが降ろしてくれたのかもしれないな・・・」
シンジは自嘲的な笑みを浮かべた。
数分後・・ようやく先程手をかけていた所に足を置き、
少し休む事が出来た。
シンジは再びロープを登って行った。
ようやく岩場まであと少しの所まで上がる事が出来た。
だが・・
引っかかっていたフックが連続的な体重の負荷に耐えられず、外れてしまったのだ。
シンジは思わずアスカの名前を呼んでしまっていた。
だが、その祈りが通じたのか、岩場の縁に両手をかける事が出来た。
「はぁ・・はぁ・・はぁ・・・・・・・・・
アスカ・・・まだ来なくていいって事なのか・・
僕にいつまで、こんな地獄にいろって言うんだ・・・・」
シンジはようやく岩場までよじ登る事が出来た。
「ここは山の北側の斜面だから・・ここから上には雪は無いか・・・
シンジは背中のバッグに入れていたザイルと登山道具を取り出した。
「みんな・・待っててくれ・・」シンジは黙々と岩肌を登って行った。
加持リョウジに山登りを教わって無かったら・・・・
そう思うとぞっとするシンジであった。
数十分後・・
シンジはようやく山頂まで上がる事が出来た。
だが・・・・
「遅かったか・・・みんな・・すまない・・」
研究所の屋根に、二機の白塗りのヘリコプターが乗っていた。
そのヘリコプターには機銃がつけられていた。
「一体どこの誰が・・こんな事を・・・」
だが、中から銃声は聞こえなかったので、シンジは胸を撫で下ろした。
シンジはデリンジャーを取り出し、弾を確認した。
「アスカ・・ようやく死に場所を見つけたような気がするよ・・」シンジはデリンジャーを構えて呟いた。
研究所を突如襲った一団は一体何者なのか?
彼等は何を探し求めているのか?
人質となった所員を助ける為、シンジは孤独な闘いを始める。
そして、その闘いはシンジに何をもたらすのか・・
勝利か・それとも死か・・
雪山に消ゆる面影を求めて
第3話【白髪の復讐鬼】
シンジは、勝利の朝を迎える事が出来るのか?
さぁて次回もサービス サービス