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YAMAHA A-8
NATURAL SOUND STEREO AMPLIFIER
¥169,0001981年にヤマハが発売したプリメインアンプ。A-1から始まったA-1桁シリーズとしては最後に
出たアンプでした。それだけに,ここまでヤマハが積み上げてきたアンプ技術を結集したともいえる
内容を持ち,X電源を搭載したプリメインアンプでは,最後に登場し,最上級機にあたる一台でした。基本的な回路構成は,ピュアカレントサーボアンプ方式を採用したDCイコライザアンプ→リニアト
ランスファ回路採用のハイゲインDCパワーアンプというシンプルでハイゲインな構成になっていま
した。さらに,この上にコンプリメンタリィプッシュプルFET差動入力のMCヘッドアンプと,NF-CR
型トーンコントロール回路を挿入できるようになっていました。MCヘッドアンプは,コンプリメンタリィプッシュプルFET入力→コンプリメンタリィプッシュプル出力
という電源に対して全く対称な回路構成で,「ピュアカレントサーボアンプ方式」を採用していまし
た。この「ピュアカレントサーボアンプ」は,電源が音質に影響を与えないために,信号電流が電源
部やアースラインに全く流れないようにしたもので,電源ラインには,信号に関係なく常に一定の電
流を流しておくという方式で,電源部や配線,電流変化による非直線性など給電系の影響を受けに
くくなるというものでした。初段のコンプリメンタリィプッシュプルは特性の揃ったFETをソース接地で
動作させているもので,P-P動作により低歪み,高リニアリティ,高SN比を実現していました。
また,A-8のMCヘッドアンプでは,一般的な100Ωの負荷抵抗の他に10kΩというハイインピー
ダンスのポジションが新たに設けられ,音質上の微妙な違いを楽しめるようになっていました。イコライザアンプは,初段をHigh-gm NchFETによる差動入力,2段目もHigh-gm PchFETに
よる差動入力とされ,終段エミッタフォロアには,ピュアカレントサーボUを置き,アンプ全体の電流
はピュアカレントサーボTによって供給されるという構成で,電源からの悪影響を徹底的に抑え,安
定した動作と低歪率特性の設計になっていました。イコライザ段では上記のように2種類のピュアカ
レントサーボが使い分けられていました。タイプTは,直列に定電流源,アンプ部に並列型定電圧回
路を構成したもので,電源電流の一定化と電源側からのノイズを絶縁する効果にすぐれ,タイプUは
電源電流変化を検出して,それをゼロに収束させるよう並列型電流吸収回路にサーボをかけるもの
で,アンプ側から見た電源インピーダンスをゼロにする効果を持っていました。また,中低域はNFB
タイプ,高域以上はCRタイプと分割され,広い帯域にわたって正確なRIAA特性と,すぐれた過渡特
性を実現していました。メインアンプは,デュアルFETによる差動入力を初段とする差動増幅2段という構成で,全てカスコー
ド接続となっていました。また,「リニアトランスファ回路」が採用されていました。この「リニアトランス
ファ回路」は,バイアス電圧は固定しておいて,並列接続したパワートランジスタの各動作点をずらせ
て,合成特性を2乗特性に近づけてリニアな総合伝達特性にするもので,なめらかな電流波形とクロ
スオーバー歪の少ない低歪率特性を実現するものでした。使用されたパワートランジスタは,Pc100W
Ic MAX10Aの高速パワートランジスタで,片chトータルコレクタ損失1200W,トータル最大コレクタ
電流30Aと,150Wの定格出力に対して十分な余裕ある容量を持っていました。電源部には,ヤマハ自慢の「X電源」が搭載されていました。この「X電源」は,交流の通電位相角を
制御(Phase Angle Control)することによって交流電力をコントロールするTRIAC素子をトランス
の一次側に挿入し,二次側の出力直流電圧と比較した情報をTRIACのゲートにフィードバックし,二
次側の出力電圧を一定に保つという,一種のスイッチング電源でした。電源周波数に同期して,TRIAC
素子が電源トランスに入力する電流をスイッチング制御し,常に大電流をトランスに流しっぱなしにするの
ではなく,必要に応じて通電する仕組みになっていました。その結果,通常より小型のトランスでも,大
電力伝送が可能になり,高いレギュレーションが得られるというものでした。当時流行したこのようなス
イッチング電源は,スイッチングによるパルスが他に影響を与えることが嫌われたのか,あまり広まる
ことなく終わりました。現在では,たぶん採用しているアンプはほとんど皆無だと思います。しかし,CD
プレーヤー等デジタル機器が発達した今,デジタルノイズをシールドする技術も相当に発達しているは
ずです。地球環境を大切にするために省エネが言われる現在,エネルギーの無駄を防ぐこのような電
源部の技術も見直されるときが来ているのかもしれません。
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内部構造,特にシャーシは,内部で閉ループとなった導体が形成されることによる生じるフラックスによる
音質の劣化を防ぐために,フレーム構造のシャーシを絶縁箇所と完全に導通を図る箇所を明確にした組
み立てをし,完全なループレス構造としていました。また,シャーシ表面には銅メッキが施され,表層を磁
気特性を示さない導電層とすることで,鉄による音質劣化を抑えていました。そして,強度を必要としない
部分の電気シールド材には厚さ35μの高純度銅箔板を使用し,ボトムカバーをプラスチックとすることで
エディカレントロス(渦電流歪み)の発生を抑えていました。パーツもアンプのグレードにあった厳選されたものでした。電源部のケミコンにはA-9で使用されていた
15,000μFのオーディオ専用プラスチックケース入り電解コンデンサーの改良型が使用され,その他
の信号経路にあるケミコンも全てオーディオ専用プラスチックケース入りのものが使用されていました。
また,NFB回路等には,電圧歪率,抵抗値安定性にすぐれ,電流ノイズの少ない,高価な窒化タンタル
抵抗が使用されていました。その他,ポリプロピレンコンデンサ,マイカコンデンサ等,各部に厳選された
パーツが使用されていました。機能的にも多機能で,それを上手に整理して配置したA-9ゆずりのパネル面を持っていました。特徴的
な機能としては,各種コントロール類をジャンプしてメインアンプにダイレクトに信号を送る「MAIN DIRE
-CT」スイッチ,インプットセレクタの位置に関係なくアナログディスクを再生できる「DISK」スイッチ,あら
かじめセットすることでアンプのピークパワーレベルを確認できる「LISTENING LEVEL MONITOR」
などがありました。以上のように,A-8は,X電源搭載プリメインの最上級機として,また,A1桁シリーズの最終モデルとし
て高い完成度を持った1台でした。繊細でクリアな音はヤマハらしいものでした。当時,プリメインアンプ
の買い換えを考えていた私も,候補に入れていた1台で,今でも心に残っている1台です。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
●A-8の主な規格●
定格出力 | 8Ω・20Hz〜20kHz・0.003% 150W+150W |
パワーバンド幅 | 8Ω・75W・0.002% 10Hz〜100kHz |
ダンピングファクター | 200(1kHz,8Ω) |
入力感度/インピーダンス | PHONO MC:100μV/100Ω,10kΩ
PHONO MM:2.5mV/100Ω,33kΩ,47kΩ,100kΩ TUNER,AUX,TAPE:150mV/47kΩ |
最大許容入力 | PHONO MC 1kHz,0.01% 11mV
PHONO MM 1kHz,0.01% 280mV TUNER,AUX,TAPE 1,2 1kHz,0.005% 17V |
出力電圧/出力インピーダンス | REC OUT 150mV/560Ω |
混変調歪率 | AUX・TAPE・TUNER(MAIN DIRECT ON)
8Ω・定格出力 0.002% 8Ω・1W 0.01% |
全高調波歪率 | 0.003%(PHONO MC→REC OUT10V)
0.003%(PHONO MM→REC OUT 10V) 0.003%(TUNER,AUX,TAPE→SP OUT MAIN DIRECT ON 8Ω・150W) |
周波数特性 | AUX・TAPE・TUNER 10Hz〜100kHz +0,−1.0dB(MAIN DIRECT ON) |
RIAA偏差 | PHONO MC 20Hz〜20kHz ±0.2dB
PHONO MM 20Hz〜20kHz ±0.2dB |
SN比(IHF-A) | 70dB(PHONO MC 入力ショート)
88dB(PHONO MM 入力ショート) 110dB(TUNER,AUX,TAPE 入力ショート MAIN DIRECT ON) 96dB(TUNER,AUX,TAPE 入力ショート MAIN DIRECT OFF) |
入力換算雑音(IHF-A) | PHONO MC 0.03μV
PHONO MM 0.1μV |
残留ノイズ(IHF-A) | MAIN DIRECT ON 80μV
MAIN DIRECT OFF 500μV |
トーンコントロール可変幅 | BASS ±10dB (125Hz/500Hz)
TREBLE ±10dBz(2.5kHz/8kHz) |
フィルター特性 | サブソニックフィルタ 15Hz 12dB/oct
ハイフィルタ 10kHz |
チャンネルセパレーション | PHONO MC→0Ω・Vol−30dB 70dB |
コンティニュアスラウドネスコントロール
最大補正量 |
−20dB(聴感補正カーブによる 1kHz) |
オーディオミューティング | −20dB |
トラッキングエラー | 2dB |
ヘッドホン出力/インピーダンス | 84mW/8Ω |
スルーレイト | 200V/μsec |
使用半導体 | Tr:111,IC:4,FET:10,LED:10,Di:63 |
定格電源電圧・周波数 | AC 100V・ 50/60Hz |
定格消費電力 | 240W |
ACアウトレット | SWITCHED×2 100W max
UNSWITCHED×1 200W max |
寸法 | 435W×144H×422Dmm |
重量 | 12.5kg |
※本ページに掲載したA−8の写真,仕様表等は,1981年5月
のYAMAHAのカタログより抜粋したもので,ヤマハ株式会社に
著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載・
引用等することは法律で禁じられていますのでご注意ください。
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