TRIO KA-9900
HIGH SPEED DC INTEGRATED AMPLIFIER ¥200,000
トリオが1978年に発売した,当時の同社の最高級プリメインアンプ。最高級重量級チューナーKT-9900とペア
となるアンプとして発売され,それまでの同社のプリメインで開発されてきた技術を全て投入して作り上げられた
集大成的なアンプでした。トリオは,1975年に,国産初の左右独立2電源方式のプリメインアンプKA-7300を
発売し,独立電源論争を巻き起こしました。また,1976年には,国産初のDCパワーアンプ搭載のプリメインアン
プKA-9300を発売し,DCアンプブームを巻き起こしました。これらの技術を全て投入して作り上げられた最高級
機がKA-9900でした。KA-9900の1つ目の特徴は,トリオの誇る「ストレートDCアンプ」であることでした。これは,イコライザーアンプを
通ったPHONO入力やTUNER(AUX)入力は,DCフラットアンプを通り,DCパワーアンプに導かれるというDCア
ンプを多段に構成し,TUNER(AUX)入力からSP端子までカップリングコンデンサーを一つも持たない回路方式で
優れた素子と共に「ハイスピード」をうたい文句にしたDCアンプブームの牽引者トリオの面目躍如の高性能プリメイ
ンアンプでした。KA-9900は、MC入力に対しては,ヘッドアンプを搭載していました。ローノイズトランジスターを初段にパラレル
接続で使用した全段コンプリメンタリープッシュプル増幅回路を持つDC構成のMCヘッドアンプを搭載し,100μV
入力で70dBの高SN比を誇りました。イコライザーアンプには,初段にFETを用いたカレントミラーつきカスコード差
動アンプを採用し,2段目には,エミッタフォロアーを設け,終段は,コンプリメンタリープッシュプルのDC構成のイコ
ライザーアンプとし,90dB(2.5mV入力時)の高SN比を誇りました。フラットアンプは,初段に温度特性の揃ったワンチップFET使用の(定電流駆動カレントミラー負荷カスコード接続FET
差動増幅)+(カレントミラー負荷差動増幅)+(コンプリメンタリープッシュプル)という構成のDCフラットアンプとして
いました。さらに,デュアルトランジスターをカレントミラー,カスコード,定電流の各回路に採用し,温度ドリフトを抑え
ていました。フラットアンプの前後にボリュームを2つ組み合わせ連動させた,超連動4連ボリュームを搭載していま
した。このボリュームには、厚みが均一で、表面の平滑性が0.2μ以下と極めて滑らかな新抵抗体「コンダクティブ・
プラスティック」を使用していました。パワーアンプは,初段にカスコード接続FET差動アンプを配し,3段目の差動アンプをカレントミラー負荷接続にした
差動3段・全段直結ICL・OCL(コンデンサーレス)構成のハイスピードDCパワーアンプとしていました。ファイナルに
は,新開発のスーパーリニアトランジスターをパラレル接続で使用し,0.03%の低歪みで150W+150W(8Ω)
の大出力を得ていました。電源部は,第2の大きな特徴である左右独立2電源方式を採用していました。18,000μFの大容量電解コンデン
サーを左右独立して2本ずつ計4本搭載し,電源トランスも左右独立で搭載する2トランス方式をとっていました。トリ
オは,上記の通り,1975年に左右独立2電源方式を初めて採用したKA-7300を発売し,「ダイナミッククロストー
ク理論」を展開して,独立電源論争を巻き起こしました。この論争の中でビクターは,プリアンプとパワーアンプの電
源をトランスから完全に独立させる前後独立2電源方式のアンプJA-S41を発表して争いました。また,逆にあえて
独立させずに大型トランス1個のみの大容量一電源方式のメリットを主張するメーカーもありました。左右独立2電源
方式は,クロストークを減らすメリットがある反面,片チャンネルに大入力があった場合には,一電源方式の方が電源
容量が大きいことになるなど,結局この論争の決着はつきませんでした。現在では,一長一短,ケースバイケースと
いうことになっているようです。
KA-9900では,前後独立2電源方式のメリットも取り込んだ形で,プリ部,トーン部に独立した専用巻線と定電圧
電源を設け,電源による相互干渉の抑制を図っていました。
以上のように,KA-9900は電源部をはじめ各部に十分な物量を投入したオーソドックスながら,当時のトリオの
アンプの集大成的な高級プリメインアンプでした。重量が25.6kgに達する本格的な重量級のアンプで,しっかり
した歯切れの良い音が特徴の高性能アンプでした。独立電源論争の一つの集大成ともいえる名機だったと思いま
す。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
これからのアンプ技術を集約しています。
これが,トリオのハイスピードアンプ。
◎DCアンプを多段に構成したトリオ独自の
ストレートDCアンプ |
◎SN比70dB(100μV入力)の
高性能DC構成MCヘッドアンプ |
◎SN比90dB(2.5mV入力)の
DC構成イコライザーアンプ |
◎コンダクティブ・プラスティックボリュームを
使用した超連動4連ボリューム |
◎DCフラットアンプ |
◎DCパワーアンプ |
◎パワーアンプ部左右2電源とプリアンプ部
各ステージ独立した定電圧電源 |
●KA-9900の定格●
■総合特性■
定格出力
PHONO→SP端子 20Hz〜20kHz両ch動作8Ω 1kHz両ch動作8Ω 1kHz両ch動作4Ω |
150W+150W 150W+150W 180W+180W |
全高調波ひずみ率
PHONO→SP端子(Vol−20dB) 定格出力時 20Hz〜20kHz(8Ω) TUNER・AUX・TAPE→SP端子 定格出力時 20Hz〜20kHz(8Ω) 定格出力時 1kHz(8Ω) 1/2定格出力時 20Hz〜20kHz(8Ω) |
0.01%
0.01%
|
混変調ひずみ率(60Hz:7kHz=4:1)
TUNER・AUX・TAPE→SP端子(定格出力時,8Ω) |
0.0045% |
周波数特性(TUNER・AUX・TAPE→SP端子)ストレートDC
ON
ストレートDC OFF |
DC〜400kHz −3dB
1Hz〜400kHz −3dB |
出力帯域幅
TUNER・AUX・TAPE→SP端子 IHF ひずみ率0.03%時 8Ω |
5Hz〜100kHz |
ダンピングファクター(TUNER・AUX・TAPE→SP端子 DC〜20kHz 8Ω | 100 |
入力感度およびインピーダンス
PHONO(MM)→SP端子 PHONO(MM)→SP端子 PHONO(MC)→SP端子 TUNER・AUX・TAPE→SP端子 |
2.5mV 33/47/100kΩ 2.5mV 47kΩ 0.1mV 100Ω 150mV 50kΩ |
SN比(IHF−A)
PHONO(MM)→SP端子 PHONO(MC)→SP端子 TUNER・AUX・TAPE→SP端子 |
90dB(2.5mV入力) 70dB(0.1mV入力) 105dB |
トーンコントロール
BASS TUNER・AUX・TAPE→SP端子 TREBLE TUNER・AUX・TAPE→SP端子 |
150Hz・75Hz ±7.5dB 10kHz・20kHz ±7.5dB |
ラウドネスコントロール TUNER・AUX・TAPE→SP端子 | +3dB・+6dB・+9dB |
ライズタイム TUNER・AUX・TAPE→SP端子 | 0.8μs |
スルーレート TUNER・AUX・TAPE→SP端子 | ±230V/μs |
■イコライザーアンプ部(PHONO→TAPE REC端子)■
PHONO最大許容入力
PHONO(MM)→REC OUT 1kHz PHONO(MC)→REC OUT 1kHz |
230mV(ひずみ率0.01%) 9mV (ひずみ率0.01%) |
PHONO RIAA偏差 20Hz〜20kHz | ±0.2dB |
■出力レベルおよび出力インピーダンス■
TAPE REC PIN | 150mV/180Ω |
DIN | 30mV/80kΩ |
PRE OUT(MAX) | 9V/750Ω |
■パワーアンプ部(POWER IN→SP端子)■
全高調波歪率 定格出力時 20Hz〜20kHz 8Ω | 0.005% |
SN比(IHF-A) | 110dB |
入力感度およびインピーダンス | 1.0V 50kΩ |
ライズタイム | 0.6μs |
スルーレート | ±230V/μs |
■電源部その他■
電源電圧・電源周波数 | 100V 50Hz/60Hz |
定格消費電力 | 400W |
電源コンセント 電源スイッチ連動
電源スイッチ非連動 |
2個
2個 |
最大外形寸法(幅×高さ×奥行)/重量 | 460×161×463(mm)/25.8kg |
※本ページに掲載したKA-9900の写真,仕様表等は1979年1月の
TRIO(KENWOOD)のカタログより抜粋したもので,ケンウッド株式
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