ONKYO INTEGRAM−509
Wスーパーサーボ方式ステレオパワーアンプ ¥350,000
オンキョーが1980年に発売したステレオパワーアンプ。同社の当時のトップモデルでした。オンキョーは,特
にプリメインアンプの分野で優れたモデルを発売していたことでも分かるように,そのアンプ技術は,スピーカ
−分野に負けず劣らず優れたものだと思います。インテグラシリーズのプリメインアンプで定評のあったオンキ
ョーは,セパレートアンプの分野では比較的製品が少ないのですが,インテグラシリーズの名を冠して優れた
セパレートアンプを作っていました。1976年のP−303+M505,1978年のP−307+M507など,恐ろ
しく高価ではないけれど,DCアンプ技術など優れたサーボ技術を生かした製品で,鮮明で力強い音には定
評がありました。このM−509はその集大成的な存在で,後のM−510(¥850,000)が出るまではトッ
プモデルとして君臨したのでした。M−509の最大の特徴は,P−309同様,オンキョー独自のサーボ技術,Wスーパーサーボ方式にありま
した。このWスーパーサーボは,出力の+−両端子からサーボ帰還をかけることで,アンプ内部で発生する
歪み成分をキャンセルするものでした。+端子側のサーボは,音楽信号と一緒にスピーカーに流れ込もうと
する超低域成分を40dB(1/100)以上もキャンセルし,−側のサーボは,電源部分から発生する雑音成分
を電気的にキャンセルする仕組みになっていました。これにより,40dB分,歪み成分を抑圧することになり,
歪み抑圧能力が100倍大きな電源と同等になるいうことで,オンキョーは「電源効果100倍」とPRしていま
した。かなり複雑な理論もあるので難しいのですが,確かに,オンキョーのアンプの低域制動能力が優れて
いたことはそのしっかりした低音からも事実でした。また,プリアンプからの入力端子にはサーボセンサー端
子があり,P−309との組み合わせにおいて最大の効果が得られる仕組みになっていました。P−309との
間をWスーパーサーボ接続することにより,音場感や音の伸びも良くなりました。当時,プリメインアンプから
セパレートアンプへとグレードアップを考えてL−02AやアキュフェーズのC−200X,P−300Xなどいくつ
かの候補をあげていた私の先輩も,プリ単体として機能性や透明感で勝るアキュフェーズのC−200Xとの
組み合わせも一時は考えたそうですが,やはり,純正のペアのP−309との間のWスーパーサーボ接続の
魅力により,結局P−309とM−509の組み合わせを選んだことを今でも思い出します。M−509のパワー段は,低歪みを誇るオンキョー自慢のリニアスイッチング方式を採用していました。これは
当時,スレッショルドから始まり,国産アンプの中で大流行した疑似A級アンプの一種ですが,特徴は可変バ
イアスではないところにありました。通常B級動作のアンプは+側と−側のトランジスターの動作特性のつな
ぎ目でクロスオーバー歪みが生じたり,切換時のスイッチングノイズが問題になったりします。そのため,この
ような問題のない(1個のトランジスターで+−両方の動作をする)A級アンプになぞらえたB級動作のアンプ
が疑似A級アンプとしてたくさん出てきました。「スーパーA」「リニアA」「ノンスイッチング」など各社から出た疑
似A級アンプの多くは,出力トランジスターのバイアスを可変させてつなぎ目を少しずらして見かけ上つなぎ目
の特性を直線にしたものがほとんどでした。このため,オンキョーの方式は少し変わっていたと言えます。オン
キョーのリニアスイッチング方式は,スイッチング速度の速いトランジスターを使うことでスイッチング歪みを解消
し,クロスオーバー歪みは,バイアスを可変するのではなく,特殊な補正回路でバイアスを補正して対処しよう
とする方式でした。従って基本的にはB級動作ですが,他社の疑似A級アンプ同様,歪み感は少ない音でし
た。Wスーパーサーボ方式により電源部の制動効果は高められていましたが,200W/ch(8Ω)を支えられる
十分に強力な電源部を持っていました。大型の電源トランスを左右独立で搭載し,十分に吟味された電解コ
ンデンサーの搭載,P−309同様の直結給電方式により,徹底したローインピーダンス化が図られていまし
た。さらに,オンキョーの優れたサーボ技術を生かし,温度変化によるパワー部の動作の不安定を防ぐために,
オートトラッキングバイアスと呼ぶ一種のサーボ回路を備え,プリドライバー部,ドライバー部,パワートランジ
スターのそれぞれの温度差を検出し,フィードバックしてバイアスをコントロールして動作の安定を図っていま
した。M−509は,重量31kgに及ぶ本格的大出力パワーアンプで,特に低域の力強さが同クラスの中では際だ
っていました。音が実に鮮明で,特にリズムが大切なロックやポップスなどでは,自分好みの音のアキュフェ
ーズより良いかなと思えるほどでした。私もよく先輩の家でロック系の名盤のLPレコード(!)を良い音で聴
かせてもらったことが今でも印象に残っているアンプです。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介しましょう。
独自の先進技術。
◎100倍大の電源使用と同等効果の
W・スーパーサーボ ◎Aクラス相当の低歪率 リニアスイッチング回路の採用 ◎完全独立大型電源と ローインピーダンス直結給電方式 ◎安定した動作を保証, オート・トラッキングバイアス方式 ◎入念なヒヤリングでセレクトされた 高純度オリジナルパーツ |
●M−509の主要定格●
◆アンプ部(表示がない場合は8Ω負荷両ch動作)◆
実効出力 | 200W+200W 8Ω(20Hz〜20kHz)
280W+280W 4Ω(20Hz〜20kHz) |
ダイナミックパワー | 280W+280W 8Ω 1kHz |
全高調波歪率(T.H.D) | 0.003%以下 実効出力時(20Hz〜20kHz) |
混変調歪率 | 0.003%以下 実効出力時(70Hz:70kHz=4:1) |
パワーバンドウィズス | 5Hz〜100kHz IHF−3dB T.H.D0.2% |
利得 | 28.5dB |
周波数特性 | 1Hz〜100kHz(+0,−1.5dB) |
S/N | 120dB IHF-Aネットワーク入力シャント |
入力感度 | 1.5V |
入力インピーダンス | 47kΩ |
スピーカー負荷インピーダンス | 4〜16Ω |
ダンピングファクター | 200 8Ω 1kHz |
出力端子 | SPEAKER SYSTEM−1,SYSTEM−2,HEADPHONE |
トランジェントキラー動作時間 | POWER ON/OFF 5sec/100msec |
◆メーター部◆
レンジ切換 | ×1(0dB=200W)/×0.1(0dB=200W) |
指示範囲 | −40dB〜4dB |
指示精度 | 0±1dB,−10±2dB,−20±3dB |
応答速度 | 100μsec −∞→0dB |
復帰速度 | 1sec 0dB→−20dB |
◆その他◆
使用半導体 | FET4,Tr82,IC7,Di86 |
電源 | AC100V 50/60Hz |
消費電力(電気用品取締法規格) | 320W |
AC出力 | 600W MAX POWERスイッチ非連動 |
寸法 | 480W×191H×439Dmm |
重量 | 31kg |
※本ページに掲載したM−509の写真,仕様表等は1981年7月のONKYOのカタログ
より抜粋したもので,オンキョー株式会社に著作権があります。したがって,これらの写
真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じられていますのでご注意ください。
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