Technics ST-G71983年にテクニクスが発売したシンセサイザーチューナー。1983年といえば最後のアナログ式チューナーである
QUARTZ SYNTHESIZER FM/AM TUNER ¥73,800
KENWOODのL-03Tが発売された年にあたりますが,この年の終わりである12月に発売されたのが本機でした。
すでにシンセサイザー方式のチューナーが主流となり,チューナーが軽量化・低コスト化していく時代の中で,5万円
以上のチューナーは珍しい存在となっていました。そうした中で,このST-G7は新技術がふんだんに投入された,そ
の後のテクニクスのチューナーの基本となったと考えられる高性能チューナーでした。ST-G7の大きな特徴は,デジタル技術の積極的な投入でした。比較的早くからシンセサイザーチューナーに取り組
んでいたテクニクスがシンセサイザーチューナーの回路構成を根底から見直し,そのために新たに7品種のLSI,IC
を新開発して完成させた「D/A(デジタル/アナログ)フュージョンサーキット」が搭載されていました。これは,従来
独立していたデジタル部(信号制御回路)とアナログ部(リニア部,信号伝送回路)を融合・一体化したもので,マイク
ロコンピューターのの能力を信号系コントロールにもフルに活用してオーディオ特性の向上と安定性の確保を図ったも
のでした。そして,フロントエンド,IF回路,MPX回路という音質を決める3箇所にクォーツ制御を行い,性能を安定して
維持する「トリプルクォーツコントロール」を採用していました。これにより,DC化の精度がさらに向上し,4Hzという低
域からの平坦な周波数特性と優れたセパレーション特性を実現していました。さらに,希望局をクォーツロックすると同
時に,マイクロコンピュータがコントロール信号のデータ転送を停止し,信号系や操作キー,マイクロコンピュータ自身か
らのノイズ輻射を皆無として,マイクロコンピュータ制御による悪影響の排除にも配慮した設計でした。
さらに,ディスプレイには微細電力で動作しノイズ輻射も極少のLCD(液晶ディスプレイ)を採用していました。ST-G7では,忠実な波形伝送のためにIF回路で発生する群遅延特性の乱れに対処する方策として,クォーツ制御に
よる高精度は3逓売回路を採用し,有害な偶数次スプリアス妨害波をシャープにキャンセルしていました。その結果,
0.007%(mono)という超低歪み特性を得ていました。検波段には,パイオニアのF-120にも見られるデジタル化を進めた「デジタル・リニア(DL)ディテクタ」を搭載していまし
た。これは,高精度ワンショットマルチバイブレーターとカレントミラー定電流積分回路によるシンプルな構成になっており
低歪,広ダイナミックレンジ特性を実現していました。また,このDLディテクタは,素子や温度変化の影響を受けにくい安
定した性能を持っているということでした。MPX段には,立ち上がりの速いパルス波を使用し,位相差歪みを解消したテクニクス自慢の「DCピークサンプリングホ
ールド方式」を採用していました。ST-G7では,この回路を新たにIC化して搭載していました。さらに,MPX信号の発生
をクォーツ発振信号で高精度にコントロールするダブルPLL MPX信号発生回路を搭載し,環境温度変化に対しても正
確で安定したステレオ復調を実現していました。RF段には,「自己演算型RF同調回路」を搭載していました。これは,希望局の周波数をとらえると同時に,A/D変換→
デジタル演算→D/A変換→VCO電位加算というループが動作してRF回路をコントロールするというものでした。この自
己演算ループが働くことにより,同調のたびにこの動作を行い,経年変化等で同調点がずれた場合でも完全同調すること
ができました。IF段では,NormalとSuper Narrowに選択度をIF帯域幅を切り替えることができるだけでなく,「オートIF」を搭載してい
ました。これは,希望局を受信するとマイクロコンピュータが隣接局の有無を検索,判断し,隣接局がない場合には±400
kHz離調55dBの高選択度ノーマル回路を選択し,あった場合には,±200kHz離調25dBの狭帯域・高選択度のスーパ
ーナロウ回路を自動的に作動させて,隣接局の妨害を鋭くカットするというものでした。機能的には,マイクロコンピュータ時代を象徴するようなチューナらしいものでした。FM/AM関係なくメモリー選局できる16
局ランダムアクセスメモリー,10dBステップで3段階に切り換えられるスキャン機能,深夜シグナルが切れると自動的にミュ
ーティングがかかる「オートミッドナイトミューティング」,受信局の信号強度を2dBステップで正確に表示する「シグナルストレ
ングスリードアウト」など,マイコン機能を利用した便利で実用的なものが搭載されていました。以上のように,ST-G7はチューナー全盛期を少し過ぎた時代において貴重な本格的なチューナーでした。テクニクスは,現在
はなくなってしまいましたが,最近まで貴重な高級機を作っているブランドでした。本機にも,その優れた技術水準がうかがえ
るかと思います。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
Dレンジ120dB,THD.0.007%をクリアする,
デジタルオーディオ伝送チューナ
◎7品種に及ぶLSI,ICを新開発
D/A(デジタル/アナログ)フュージョンサーキット
◎音質を決める3つの箇所をクォーツ制御
トリプルクォーツコントロール
◎受信と同時にデータ伝送をストップ
ノイズ妨害ゼロのデジタルコントロール
◎極めてすぐれた波形伝送特性
伝統のDC増幅・DC検波・DC復調
◎群遅延特性の乱れをなくした
クォーツダブルコンバートIF
◎シンプル構成で直線検波・直線復調
デジタルリニアディテクタ
◎環境温度変化にも極めて強いクォーツ制御
New DCピークサンプリングホールドMPX
◎希望局を常に最高条件で受信できる
自己演算型RF同調回路
◎コンピュータが隣接妨害局を自動排除
FM多局化時代に応えるオートIF
◎大容量コンピュータによる記憶・検証・出力
テクニクスならではの多彩な操作機能
◎オーディオコンピュータ時代にも対応済
パーソナルコンピュータ接続用I/O端子
(FMチューナー部)
受信周波数帯 | 76.1〜89.9MHz |
実用感度 | 12.8dBf,1.2μV(IHF’58) |
SN50dB感度 | モノラル 18.1dBf,2.2μV(IHF’58)
ステレオ 38.1dBf,22μV(IHF’58) |
全高調波歪率 | モノラル 0.007%
ステレオ 0.008% |
ダイナミックレンジ | 120dB |
周波数特性 | 4Hz〜18kHz +0.2dB,−0.5dB |
実効選択度 | normal 55dB(±400kHz)
super narrow 25dB(±200kHz) |
キャプチュアレシオ | 1.0dB |
イメージ妨害比 | 90dB(83MHz) |
IF妨害比 | 105dB(83MHz) |
スプリアス妨害比 | 110dB(83MHz) |
AM抑圧比 | 70dB |
ステレオセパレーション | 20Hz 65dB
1kHz 65dB 10kHz 50dB |
リークキャリア | −70dB(19kHz) |
アンテナ | 75Ω |
(AMチューナー部)
受信周波数帯 | 522〜1629kHz |
実用感度 | 290μV/m,20μV(SN=20dB) |
選択度 | 55dB |
イメージ妨害比 | 40dB |
IF妨害比 | 60dB |
(総合)
出力電圧 | 0.65V |
消費電力 | 11W |
電源 | AC100V 50/60Hz |
外形寸法 | 430W×97H×377Dmm |
重量 | 4.1kg |
停電補償 | 約1週間 |
※本ページに掲載したST-G7の写真,仕様表等は1983年10月のTechnics
のカタログより抜粋したもので,松下電器産業式会社に著作権があります。
したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じられ
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