SS「舞台裏の出来事」








♪この場所に生きて
はるか明日を見よう
あなたが希望
きっと未来への道♪





『花組 秋公演 青い鳥』
『希望』の唄のラスト、華やかな管楽器の音が響く中、大神一郎は一人、
舞台の袖でワニの着ぐるみを脱いでいた。

「今回もいろいろあったけど、
 戦いと公演を通してレニが心をとり戻してくれてよかった。」

そう感じ、一人しみじみと感動に浸っていると。


ゴソゴソゴソ


「大神〜。案ずるより生むが易しだなぁ」
さっき、黒子がはずしてくれたワニのしっぽの部分から。


−ジャララン−


「いやぁ、舞台はいいなぁ」
「加山、おまえいつの間に」
「幸せだなぁ。お前と一緒に舞台に立つことができて。顔は見えてないけどな。」
「ははは!でもいつからそこに入っていたんだ?」
「大神〜。小さいことは気にするな。
 さあ、花組のみんなが舞台から帰ってくるぞ。」
「ああ、そうだな。みんなを出迎えてやらなければな」
「それでは・・・。
 アディオース、トーゥ!」
「ははは、相変わらずだな、加山は」





タッタッタッタッ


「隊長」
「あ、レニ。」
「・・・隊長。・・・あの・・・。」
「レニ、お疲れさま。チルチル役、とてもよかったよ。」
「・・・隊長・・・あ、ありがとう」

そう言ってレニは顔をあげ、大神の方を見た瞬間。

「・・・くっ・・・くっ・・・。
 ・・・・・・・・・くっくっくっくっクククククククク・・・・・・・・・。」
 (以下永遠に続く)



パタパタパタパタ



「レーニ。どーしたの。なんか笑ってるけど・・・。
って、おにーちゃん。なーにそのカッコ。きゃはははははは。」
「レニ、アイリス。舞台裏よ。ちょっと静かにって。
 隊長どうしたんですか。その格好は。」
「あはははは。でも、隊長おもしれぇカッコしてるな。あはははははは。」
「みんないったいどうしたんだ・・・って。あ!」

そう、大神はまだ『ワニ』の着ぐるみを全部外してはいなかったのだ。
しっぽの部分は加山&黒子さんが持っていったが。
今の大神の状態は『ワニ』の上半分がすっぽりと体を覆った状態。
『ワニ』の口の部分から頭だけが「ポッ」っと出たという。
これで感動のご対面なんてこと、あるわけない。
(ですよね。)


「みなさん、何騒いでるデスカー」
「あーあ、大変でしたわね。一時はどうなることかと思いましたわ。」
「あ、すみれ。やっと降りてこれたのね。」
「大変だったなぁ。す・み・れ」
「ホントに大変でしたわ。」
「舞台の仕掛けですから、公演中に降ろすことなんでできませんからね。」
「それに、降ろした後、
紐にひっかかったしっぽを解くのって大変やったんやから。」
「本当に迷惑な方デスネー。」
「それもこれもみんなあなたが悪いのですわよ。」


「あれ、すみれ。何か言ってるけど。ねぇ、レニ。だいじょうぶ」
「う・・・、うん。アイリス。もう大丈夫。なんとか慣れたみたいだから。
 ・・・くっ・・・クククク・・・・。」
(まだ止まらないらしい)
「レーニぃ。」
「俺、ちょっと行って止めてくるよ。アイリス、レニを頼んだよ。」
「うん、まかせてね。おにーちゃん。」


「何やってんだよ、みんな。公演、まだ終わってないんだよ。」
「あ、あら少尉。何て格好ですの・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
 って、まさか少尉も舞台に出ていらしたのですか?」
「あ、ああ・・・・・・・・。」
「もう、なんて恥ずかしい。それもこれもみんなカンナさん。あなたが悪いのですわよ。
 だいたいあなたが宙吊りなんてやらなければ。」
「なんだとぉ、すみれ。やる気かぁ。」
「すみれ、カンナ。喧嘩ならアンコールの後にしなさい。」
「マ、マリアさん。それはちょっと違うのでは。」
「あ、そうね。とにかく今は喧嘩はやめなさい。でないと・・・」
「マリアはん、怒らせたら大変やで。
 いつ舞台でコケて床に大穴開けるか分からんのやからな。」
「あら、紅蘭。私は紅蘭みたいにいつも爆発して物壊してばかりじゃないわよ。」
「きっついなぁ。マリアはん。」
「あははははははは!」
「さあみんな。お客さんが待ってるよ。」
「そうね、じゃみんな。行くわよ」
「「「「「「おー!」」」」」」



「レニ、もう大丈夫?」
「うん、アイリス。何とか大丈夫みたいだ。」
「じゃ、隊長。僕行ってくるよ。」
「ああ、レニ。行っておいで」
「レーニ。さ、いこ。」
「うん、アイリス。」




−そして−


アンコールを望む拍手の音が、ワーという歓声と共に大きな拍手へと変わった。
まず、さくら・紅蘭・カンナ・マリアが登場。
次に、織姫とすみれがゲストの江戸川夢声を連れて現れる。
かすみ・由里・椿の三人娘が可愛らしく舞台を舞う。
最後にかえでをはさんでレニとアイリスが中央に来る。
そして、キャストが一斉に礼をすると、拍手の音はピタリと止んた。

「皆様、本日は花組、秋公演『青い鳥』におこし頂きありがとうございました。」
「ありがとうございました」
「それでは、本日出演のメンバーをご紹介致します。」


メンバーの一人一人がお客様への感謝の言葉を述べる様子を、
大神は舞台袖で眺めていた。


が!!


「それでは最後に、本日の特別出演。『ワニ』を演じました、モギリ、大神一郎!」
「え、オ、俺!」
「「「大神さーん。早く早く!」」」
「大神君。みんなを待たせちゃいけないじゃないの。」
「は、はい」

慌てて舞台に出て行く大神。
その瞬間。
場内、爆笑の渦。
なんとまだ、あのワニの格好のままだったのだ・・・。








【大帝国劇場 公演記録】



太正十四年九月、花組 秋公演「青い鳥」
主演:レニ・ミルヒシュトラーセ、イリス・シャトーブリアン
演劇関係者から絶賛の評価を得る。
連日満員の客席。立見客も続出。
主演2人の名演技もさることながら、
脇をかためる花組及びゲストの演技にも甲乙つけがたいものがあった。

しかし、
その舞台の初日のカーテンコールがこんな爆笑の中、幕を閉じたことは・・・。
記録には残されていない。



<お・し・ま・い>





−1999年3月12日 サクラBBSにて発表−


製作裏話



その後、幕の裏では・・・