AX-77の写真
Victor  A-X77
STEREO INTEGRATED AMPLIFIER ¥110,000

1982年にビクターが発売したプリメインアンプ。ビクターは,1978年にいち早く可変バイアス
方式を採用し,低歪みを実現した「スーパーA方式」のアンプを発売し高い評価を得ていました。
その「スーパーA」アンプをさらに改良,強化して発売されたのが,このA-X77でした。

A-X77の最大の特徴は,パワーアンプ部の「スーパーA」をさらに発展させ,「ダイナミック・スー
パーA」のパワーアンプとしていたことでした。「スーパーA」は,バイアスを少し可変とすることで
コントロールし,常に電流が両波形のトランジスターに流れるようにしてスイッチングをなくしたも
のでした。高速動作の「スーパーAバイアスサーキット」によるバイアス電流のコントロールと高速
なスイッチング特性を持つハイfγパワートランジスターの採用でB級アンプとしての高効率での
高出力と,A級アンプ並の歪み特性を実現したものでした。
「ダイナミック・スーパーA」では,さらにこの回路に「アイソレートドライブ回路」と「ウェーブ・コレク
ション・プロセッサー」が組み合わされ,スピーカー駆動力の向上と歪みの低減を図っていました。

「アイソレートドライブ回路」は,電圧増幅を行うプリドライブ段と,電力増幅を行うパワー段との動
的干渉を断ち切ろうというものでした。FETの特性を巧みに生かした一種のインピーダンス変換回
路を挿入し,パワー段やスピーカー負荷による動作変動がプリドライブ段に悪影響を与え,スピー
カー実装時の特性を劣化させることを抑えようとしたものでした。これにより,スピーカーへの駆動
力が向上し,逆起電力もほとんどパワー段での吸収が可能となっていました。ビクターは,1976年
JA-S41で,前段のA級動作部分とパワー段のB級動作部分の電源を独立させた「A級・B級
独立電源」を他社に先駆けていち早く採用するなど,プリメインアンプにおける,前後段の干渉の
解消に取り組んできた歴史があり,その流れの中の回路方式と考えられ,後のAX-1000の「G
mドライバー」等もこの技術の流れにあるものと考えられます。

「ウェーブ・コレクション・プロセッサー」は,「スーパーAバイアスサーキット」によって補正されたパ
ワー段の電圧波形に対して,さらに電流による波形操作を加えて,原波形に近く補正する波形補
正回路で,きわめて安定に広帯域な歪低減動作が実現し,歪みの低減効果はそれまでの「スー
パーA」に対して20dB〜40dBも向上していました。

A-X77では,「ダイナミック・スーパーA」のために専用ICが新開発されて搭載されていました。こ
のICは,基本的に従来の「スーパーA」動作を継承しながら,高速応答性やリニアリティをさらに
向上させ,「アイソレートドライブ回路」や「ウェーブ・コレクション・プロセッサー」との組み合わせで
スピーカーのインピーダンス変動にも殆ど影響を受けない低歪率パワーアンプ部を構成していま
した。
さらに,メインのNFBには,トランジスタの裸特性を損なわないピュアNFBが採用されていました。
これは,まず従来のパワーアンプのNFBでは不可欠だった位相補償用コンデンサーをほとんど使
わずに,NFB以前の裸特性を大幅に向上させ,そして動特性をよくするためにNFB量を減らすの
ではなく,帰還回路で位相をコントロール(NFB回路で位相をDULL LEAD=180度進相)してNFB
量を超高域までまったく安定に均等化させるというものでした。この結果,歪率やダンピングファクター
のフラットレンジが大きく向上していました。

A-X77の全体の回路構成は,ハイゲインMC・MM/DCサーボ・イコライザーとダイナミック・スーパー
Aパワーアンプという,プリメインアンプならではのシンプルな2アンプ構成で,信号経路のシンプル化
が図られており,前モデルのA-X9やA-X7D等の構成を引き継いでいました。
MC・MM/DCサーボ・イコライザーは,初段にアクティブ・ロードを配してオープンループ・ゲインを高
めるとともに,パワーアンプと同様なピュアNFBを用いて低域から高域まで必要かつじゅうぶんな負
帰還をかけて,特にMCポジションでの歪率特性を大きく向上させていました。

A-X77の内部

電源部は,大型のトロイダル電源トランスと4本の電解コンデンサーを基板上に配置したダイレクトパ
ワーサプライ方式がとられていました。パワートランジスターへの給電には,太い銅板バス・バーを用
いることで電源インピーダンスを大きく低減していました。
信号レベルが低く,アースラインの電位差の影響を受けやすいイコライザーアンプの電源回路には,
一般的な直列型定電圧電源回路に加えてシャント型定電圧回路が採用されていました。電源電圧を
2重にロックしながら,信号レベルと無関係に電源ラインを一定化することで信号経路と電源経路の
干渉歪みも抑えられていました。シャント型定電圧回路は,その内部を流れる電流と負荷(この場合
はイコライザーアンプ)に流れる電流の和が常に等しくなるように動作するため,負荷となるイコライ
ザーアンプのすぐ近くに配置することで,基板や配線材の抵抗分によって生じる悪影響は除去され
交流的にはゼロ電位に近くなるというメリットがあり,カートリッジ実装時の動特性にすぐれているとい
うものでした。

内部構造的には,リアパネルの入力端子はすべて基板にダイレクト接続され,PHONO入力端子と
スピーカー出力端子は,それぞれ端子の近くにリモートスイッチ設けて配線の引き回しをなくし,ダイ
レクト接続を徹底していました。さらに,大電力を扱うパワーアンプ部の電磁的・静電的影響が小出
力信号を扱うイコライザーアンプ部等へ及びにくいように,パワーアンプ部の基板は大型ヒートシンク
でセパレート化されていました。パーツの面でも,無接点,無誘導構造のエミッター抵抗など,配慮が
なされていました。

機能的には,プリメインアンプとしてオーソドックスな作りでしたが,電源スイッチ,ボリューム,入力切
換などの主要な操作部分以外は下部のシーリング・ポケット内に納められたA-X9等の前シリーズを
受け継ぎ,シンプルなパネルデザインが特徴的でした。ボリューム・ポインターを兼ねたLEDによるプ
ロテクション表示もデザイン的なシンプルさにマッチしていました。シーリングポケット内にもテープの入
出力端子があり,テープ端子は3系統になっているのも特徴でした。

以上のように,A-X77は前モデルのA-X7Dからの正常進化といった内容を持ったアンプで,「ダイナ
ミック・スーパーA」など,次の世代の同社のアンプにつながっていった技術も,ここで開発搭載されて
いました。ビクターらしいバランスの取れた滑らかでクリーンな音は外観のイメージともつながるもので
大げさでない使い易いアンプでした。また,A-X77には,内容的に非常に共通点の多い弟機A-X55
(¥75,000)も発売され,コストパフォーマンスの高い1台となっていました。

A-X77とA-X55の写真


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



内部歪の低減から
各干渉歪みの抑圧に進み,
ダイレクト・イン・ダイレクト・アウトの
設計思想を深めた
プリメインアンプの粋。


◎スピーカー実装時の歪率を極減
 してアイソレート・ドライブ回路。
◎歪低減効果20〜40dBにおよぶ
 ウェーブ・コレクション・プロセッサー。
◎ダイナミック・スーパーA専用の
 新開発ICとピュアNFB。
◎アクティブ・ロード+ピュアNFBによって
 MC使用時の歪を低減,
 シャント・ロック・パワーサプライで
 電源との干渉歪も除去した
 ハイゲイン・イコライザー・アンプ。
◎ダイレクト・イン・ダイレクト・アウト
 設計と,電磁干渉歪の低減。
◎電源インピーダンスを
 広帯域に低減した
 ダイレクト・パワーサプライ。

■無接点,無誘導構造のエミッター抵
 抗など,選びぬかれた音質重視パーツ。
■ボリューム・ポインターを兼ねたプロ
 テクション表示,LEDプロテクション・
 インディケーター。
■ショート・ストロークの大型プッシュ・
 スイッチや,シーリング・ポケット内の
 ロータリー・ノブなど,洗練された明確
 な操作機能レイアウト。
■3系統のテープ入出力端子。




●仕様●

  
A-X77
A-X55
回路方式
イコライザーアンプ部
ピュアNFB・ICL・DCサーボ,初段EL-FET
カスコード・ブートストラップ付き
MC・MMイコライザーアンプ
ピュアNFB・ICL・DCサーボ,初段EL-FET
カスコード・ブートストラップ付き
MC・MMイコライザーアンプ
パワーアンプ部
ダイナミック・スーパーA
ダイナミック・スーパーA
電源部
ダイレクト・パワーサプライ
ダイレクト・パワーサプライ
総合特性
実効出力

(TUNER,AUX,TAPE→SP OUT)
20Hz〜20kHz
95W+95W(8Ω,THD0.003%)
1kHz
100W+100W(8Ω,THD0.0005%)
(TUNER,AUX,TAPE→SP OUT)
20Hz〜20kHz
80W+80W(8Ω,THD0.003%)
1kHz
83W+83W(8Ω,THD0.0007%)
全高調波歪率
(TUNER,AUX,TAPE→SP OUT)
20Hz〜20kHz:0.003%(8Ω,実効出力時)
(PHONO→SP OUT)
20Hz〜20kHz:0.005%(VOLUME−30dB)
(TUNER,AUX,TAPE→SP OUT)
20Hz〜20kHz:0.003%(8Ω,実効出力時)
(PHONO→SP OUT)
20Hz〜20kHz:0.007%(VOLUME−30dB)
混変調歪率
(TUNER,AUX,TAPE→SP OUT)
20Hz〜20kHz:0.001%(8Ω,実効出力時)
(TUNER,AUX,TAPE→SP OUT)
20Hz〜20kHz:0.002%(8Ω,実効出力時)
スイッチング歪


TIM歪
0(LPF fc=100kHz)
0(LPF fc=100kHz)
出力帯域幅
(TUNER,AUX,TAPE→SP OUT)
5Hz〜60kHz(IHF,0.02%,8Ω)
(TUNER,AUX,TAPE→SP OUT)
5Hz〜60kHz(IHF,0.02%,8Ω)
周波数特性
(TUNER,AUX,TAPE→SP OUT)
DC〜300kHz(+0,−3dB)
(TUNER,AUX,TAPE→SP OUT)
DC〜300kHz(+0,−3dB)
ダンピングファクター
(TUNER,AUX,TAPE→SP OUT)
150(1kHz)
(TUNER,AUX,TAPE→SP OUT)
150(1kHz)
入力感度/インピーダンス
(1kHz)
PHONO(MM):2.5mV/47kΩ
PHONO(MC):200μV/100Ω
TUNER,AUX,TAPE:200mV/47kΩ
(1kHz)
PHONO(MM):2.5mV/47kΩ
PHONO(MC):180μV/100Ω
TUNER,AUX,TAPE:160mV/47kΩ
SN比
PHONO(MM):86dB
     (IHF A-202 83dB REC OUT)
PHONO(MC):72dB(250μV入力)
     (IHF A-202 76dB REC OUT)
PHONO(MM):86dB
     (IHF A-202 84dB REC OUT)
PHONO(MC):70dB(250μV入力)
     (IHF A-202 76dB REC OUT)
トーン・コントロール
BASS   100Hz ±8dB
TREBLE 10kHz ±8dB 
BASS   100Hz ±8dB
TREBLE 10kHz ±8dB
サブソニック・フィルター
18Hz(−6dB/oct)
18Hz(−6dB/oct)
ラウドネス
+6dB(100Hz)+4dB(10kHz)
+6dB(100Hz)+4dB(10kHz)
ミューティング
−20dB
−20dB
イコライザーアンプ部(PHONO→REC OUT)
PHONO最大許容入力
PHONO(MM):300mV
      (1kHz,THD0.0008%)
PHONO(MC):23mV
      (1kHz,THD0.001%)
PHONO(MM):250mV
      (1kHz,THD0.004%)
PHONO(MC):15mV
      (1kHz,THD0.008%)
PHONO RIAA偏差
(20Hz〜20kHz)±0.2dB
(20Hz〜20kHz)±0.2dB
全高調波歪率
PHONO(MM):0.002%
      (8V出力,20Hz〜20kHz)
PHONO(MC):0.005%
      (8V出力,20Hz〜20kHz)
PHONO(MM):0.004%
      (8V出力,20Hz〜20kHz)
PHONO(MC):0.008%
      (8V出力,20Hz〜20kHz)
REC出力電圧/インピーダンス
200mV/660Ω
160mV/660Ω
電源部その他
定格消費電力
(電気用品取締法基準)
225W
200W
電源コンセント
SWITCHED 2個
UNSWITCHED 1個
SWITCHED 2個
UNSWITCHED 1個
寸法
435W×140H×402Dmm
435W×140H×404Dmm
重量
11.0kg
10.0kg


※本ページに掲載したA-X77,A-X55の写真,仕様表等は,
 1982年1月のVictorのカタログより抜粋したもので,日本
 ビクター株式会社に著作権があります。したがって,これらの
 写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じられてい
 ますのでご注意ください。

 

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