AX-S9の写真
Victor AX-S9
STEREO INTEGRATED AMPLIFIER ¥98,000

ビクターが1992年に発売したプリメインアンプ。それまでのビクターのアンプとはデザインを一新し,ノイズを低減す
るために,回路構成,パーツのクオリティなどをよりいっそう高めた設計により,高いコストパフォーマンスをもつ1台
となっていました。

AX-S9の最大の特徴は,プリメインアンプとして初めて全段差動信号伝送としていたことでした。差動信号伝送は
ノイズ成分をキャンセルし,音楽信号のみを増幅できるメリットを持ち,デジタル時代に効果が期待できるものでした。
AX-S9では,これまで信号電流とノイズ電流とが共通に流れていたグランドラインを,それぞれ音楽信号専用とノイ
ズ専用に分離し,音楽信号ラインを,入力端子からパワーアンプ部にいたるまでボリュームコントロールを含めて独
立させる構成として,ピュアな音楽信号伝送を実現しようとしたものでした。
デジタルノイズ等最もデリケートなCDに対しては,CD差動入力端子を装備し,CDプレーヤーとAX-S9を結ぶケー
ブル間を流れるデジタルノイズや電源ノイズを排除するようになっていました。リアパネルのCD端子に切換ボタン
(DEFERENTIAL/NORMAL)が装備され,DEFERENTIALにすることで,CDプレーヤーの出力ラインまでさかの
ぼっての差動信号伝送が行われるようになっていました。

出力段は,ハイパワートランジスターを片チャンネル4個使用したパラレルプッシュプル構成で,A-X9以来のスイッチ
ング歪みを抑えた「スーパーA」を受け継ぎ,電源電流の2次歪みの影響を大きく低減させた「アドバンスト・スーパー
A」方式を採用していました。定格出力を低めに抑え,ローレベルのクオリティを高めたゆとりを持たせた設計になって
いました。さらに,パワーアンプ部全体は,差動信号伝送によるL/Rの電気的な分離を完全なものにするため,基板
及びヒートシンクをL/R独立としたL/R独立コンストラクションとしていました。

AX-S9の電源トランストランスベース
コア・ボビン・トランストランスベース構造図

電源トランスは,大型でかつ機械的振動が音質に与える影響も考慮したものとなっていました。通常のトランスではコ
イルを巻いた際のボビン中心のたわみとそれによって生じる空隙をさけるため,コア・ボビン・トランスを採用して空隙を
なくし,不要振動を抑えていました。さらに,上級のパワーアンプME-1000,プリメインアンプAX-900のシャーシに
採用されたハイカーボン鋳鉄製のトランスベースを新開発し搭載していました。このトランスベースはトランスのベース
としてだけでなく底板を貫いてアンプ自体の足を兼ねる構造で,トランスの振動を外部に逃がす設計となっていました。

全入力リレー切換

入力セレクターは,全入力リレーによるソースセレクターを搭載し,信号ラインの複雑化や接点による音質劣化を避けて
いました。リレー部には,金クラッド銀パラジウム接点を採用するともに,完全密封構造として接点による音質劣化と経
年変化を抑えていました。
入出力端子はすべて金メッキ処理が施され,スピーカー端子はバナナプラグ対応のスピーカー端子を搭載していました。

以上のように,AX-S9は,全段差動伝送をプリメインアンプに初採用し,各部に物量を効果的に投入したビクターの意欲
作でした。低域の量感のある色彩豊かな音を持った実力機でした。
 
 

以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
 
 


ノイズのベールを剥がすと,
音楽の素顔が見えてきました。
      プリメインアンプ初。全段差動信号伝送

差動信号伝送と
大地に根づくトランスベースで知る,
音楽信号の素顔。
 

◎ノイズから音楽信号を守る,全段差動信号伝送。
◎大地に根づくような,ハイカーボン鋳鉄トランスベース。
◎増幅の理想に,一歩また近づいた,アドバンスト・スーパーA。
◎パワーアンプ基板までもL/Rセパレート構成の
 パワーアンプ部。
◎音質劣化を追放するハイクオリティな
 全入力リレー切換ソースセレクター。
◎CDプレーヤーにさかのぼってノイズを追放する,
 CD差動入力端子。(切換ボタン付)
◎アナログレコードを蘇らせる,
 MC/MM対応フォノイコライザーアンプ。
◎接点や信号の流れにまで配慮した,
 金メッキ端子バナナプラグ対応スピーカー端子。
●主な仕様●


定格出力 120W+120W(6Ω,20〜20,000Hz,歪率0.01%)
100W+100W(8Ω,20〜20,000Hz,歪率0.007%)
SN比 85dB(PHONO MM)
67dB(PHONO MC)
100dB(CD/TUNER/AUX/TAPE)
周波数特性 5〜100,000Hz(+0dB,−3dB)
入力端子
(入力感度/入力インピーダンス1kHz)
2.5mV/47kΩ(PHONO MM)
200μV/100Ω(PHONO MC)
200mV/47kΩ(CD/TUNER/AUX/TAPE)
消費電力 190W(電気用品取締法基準)
外形寸法 471W×175H×447Dmm
重量 17kg
※本ページに掲載したAX-S9の写真,仕様表等は,1992年7月
 のVictorのカタログより抜粋したもので,日本ビクター株式会社
 に著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載
 ・引用等することは法律で禁じられていますのでご注意ください。
 

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